スマート社会を実現する、新しい車いすの形
車いすは段差に苦労する
現在、介助用に使用されている車いす(主に介助者が押して動かすもの)の多くは、大きな2つの後輪があり、小さな2つの前輪が方向転換のキャスターとなっているものです。このタイプの車いすには、段差を乗り越えにくいという欠点があります。前輪は簡単に浮かせられますが、後輪を上げるのにはかなりの力が必要になります。この問題を解決するために、段差昇降を楽にできる装置の開発が進められています。
回転型3輪で車体を持ち上げる
検討されているものの1つに、「回転型3輪」を「てこ」のように使用し車体を持ち上げる、というものがあります。回転型3輪とは、運搬用のカートなどに使用されている機構で、小さい3つの車輪が1本の軸のまわりを回ることで段差や階段を移動しやすくするものです。常に3輪のうち2つが接地しているので、安定性にも優れています。
実際には、車いすの後部に、収納可能な回転型3輪を取り付けます。通常、回転型3輪は上側に収納されていて、段差を乗り越える時だけレバーを下げて回転型3輪を床に着けます。回転型3輪に付いたレバーを介助者が足で踏むことで、「てこの原理」で車いす全体を持ち上げることができます。車体を直接手で持ち上げるのではなく、てこを使った足での操作なので、介助者の負荷がかなり軽くなります。
身近なものから開発のヒントを
このように、複雑な仕組みの機械を使用しなくとも、てこの原理のようなシンプルな物理法則をうまく利用することで、効率的なリンク機構(つなぎ合わせた物体の一方を動かすことで力を伝える機構)を作ることは可能です。身のまわりにあるリンク機構を生かした品々、例えば足踏み式の空気入れなどにも、福祉用品に応用できるヒントがあるものです。
こうした研究は、車いすを介助する人の負担軽減になるだけでなく、車いす利用者の行動範囲を広げることにもつながります。さらには、産業用の運搬機器などへの利用も期待されています。
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大阪産業大学 工学部 機械工学科 講師 杉山 幸三 先生
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