モンゴルのゲル地区を通して、新しい都市像を探る
モンゴル国民の約半数は首都に暮らす
モンゴルと聞くと、広大な草原での遊牧生活がまず頭に浮かんでくるかもしれません。ところが、そのようなイメージに反して、モンゴル国では実は人口の約半数が首都ウランバートルに集中しています。ウランバートルの中心部には近代的な高層建築物が並んでいますが、その郊外には遊牧用の移動式住居であるゲルや、木造家屋が集まった「ゲル地区」が広がっています。ウランバートルの世帯数の約半分がこのゲル地区の住民です。
ゲル地区はただの“スラム”ではない
ゲル地区はモンゴルの社会主義体制崩壊後、多くの人が生活の糧を求めて首都へと移動したことで広がりました。しかし都市インフラの整備は十分でなく、たとえばゲル地区に上下水道は完備されていません。そうした居住環境を改善すべく、これまで多くの国際機関や援助団体が活動を行ってきました。このように聞くと、ゲル地区は発展途上国のスラムの一端だ、と思うかもしれません。
ゲル地区で暮らす人々のライフヒストリーを読み解いていくと、単に地方で困窮した遊牧民が集まってできた居住地ではないことがわかります。大学への進学や就職など移住の理由は様々ですし、遊牧民にかぎらず定住地から移住して来た人もいます。ゲル地区が成立・発展した背景には、社会主義時代の経験や民主化の過程、ゲルという移動可能な住居での暮らし方など、モンゴルならではの歴史や文化的要素が深く関わっています。
定住や都市のあり方を見つめ直す
ゲル地区への移住者は必ずしもそこに居続けるわけではなく、アパートに移ったり、夏の間は地方に戻ったり、あるいは海外で就労したりと移動を繰り返します。特定の場所に根を張ることを考えがちな日本と違って、モンゴルでは人びとの移動への抵抗が少ないように見受けられます。そうした柔軟性の高い暮らし方を知ることで、定住や都市のあり方そのもの、さらには私たちの生活を再考することにもつながっていくでしょう。
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