地球科学の知を土木・建築に活かす―建造物や遺跡の風化・劣化調査

地球科学の知を土木・建築に活かす―建造物や遺跡の風化・劣化調査

人類の生活基盤としての石・土・岩盤

先史時代、洞窟に住んでいた人類は、その後、岩石や土を住まうため、埋葬するため、権力を誇示するために土木・建築材料として利用するようになりました。現在に残る大型建造物の大半は世界遺産に認定されています。今や、土木遺産や地盤遺産という言葉も存在し、その修復や保存も行われています。しかし、遺産価値が高いものは、修復の際には極力オリジナルの素材を使わなければならず、まずはもともとの素材の特徴をきちんと把握することが必要です。また、年月が経つほどオリジナルの材料を入手できなくなることも多く、岩石の性質や風化・劣化の状態をさまざまな分析手法を用いてきちんと調査する必要があるのです。

水―岩石反応と塩類風化

地下水や雨水などが建造物材料としての石材や土に染み込むと、石材や土の成分が水に溶け出し化学反応が起こります。これが水―岩石反応(水―岩石相互作用)です。そして、水分が蒸発するなどして条件が整うと、新たな生成物(塩/えん)として析出してきますが、その際に材料を壊してしまうのです。この現象を塩類風化と呼んでいます。地下水などの溶液側と石材などの固体側とに含まれている物質は複数あり、その組み合わせでさまざまな塩が析出するため、風化・劣化のメカニズムも千差万別です。

多面的な視点で劣化を考える

塩の析出条件を支配する要素には、温度と湿度もあります。溶解度に温度依存性をもつ塩、例えば、硫酸ナトリウム(Na₂SO₄)(鉱物名:テナルダイト)であれば、夏と冬で析出率が変化しますが、温度依存性のない塩であれば変化しません。大気中の湿度も析出の可否を支配します。また、塩の種類により結晶圧も異なるので、岩石を破壊する力も変わります。石材中の間隙の大小も劣化に影響を与えます。このように、岩石の風化・劣化を知るためには、多面的な視点で調査を行う必要があるのです。

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埼玉大学 工学部 環境社会デザイン学科 准教授 小口 千明 先生

埼玉大学 工学部 環境社会デザイン学科 准教授 小口 千明 先生

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土木工学、地球環境科学、材料科学

先生が目指すSDGs

メッセージ

人類は昔から、大地の環境に順応して暮らしを発展させてきました。したがって土木や建築を究めて「社会をデザイン」することをめざしていても、大地の環境や風土・歴史も知っておくべきでしょう。世界的にみれば建築材料としてのコンクリートの歴史は浅く、石材(岩石や土)が古くから使われてきました。当時の材料の現状、つまり風化変質し劣化した状態を知ることは、今の材料の将来を見極めるヒントにつながります。異分野融合で未開拓の領域も多く、オリジナルの研究にも取り組めます。分野を横断して物事を見る眼を養いましょう。

先生への質問

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