麻酔は縁の下の力持ち! 現代医療に不可欠な痛みのコントロール

現代医療を支える麻酔科学
医療において治療(cure)とともに重要なのが、症状のコントロール(care)です。手術においては、全身麻酔がまだ発明されていない時代には、麻酔なしで行われ、痛みのショックで手術中に亡くなる患者が少なくありませんでした。現代医療の安全な手術は、麻酔による痛みのコントロールの上に成り立っていると言えます。「治療(cure)」と「ケア(care)」はどちらも欠かすことのできない医療の両輪なのです。
特に、がん患者の緩和ケアには痛みのコントロールは欠かせません。痛みの除去はがん患者のQOL(生活の質)の向上や、人としての尊厳を守るために必要なケアです。
痛みのメカニズムの謎
ところが、痛みの中でもたたく、つねるなど物理的な力によって引き起こされる痛みを体が感知するメカニズムはまだよくわかっていません。一方、現在使われているモルヒネなどの鎮痛剤は4000年も前から使われているものですが、脳・脊髄の中枢神経に作用するため、大量に投与すれば依存症や中毒を引き起こしてしまいます。実際にアメリカでは中毒死する患者の増加が社会問題になっています。そこで、中枢神経ではなく末梢(まっしょう)神経で痛みをブロックする薬の開発をめざして、痛みを感知するメカニズムの研究が行われています。
術後の痛みもがんの痛みも取り除く
研究では、手術後の状態を模したマウスや炎症状態のモデルマウスを使って、痛みを感知する遺伝子を探します。何種類かある神経のうちの一つを失くしたマウスは痛みを感じないことがわかったので、その神経に関係する40個超の遺伝子を詳しく調べたところ、痛みの感知に関与している一つの遺伝子を同定することに成功しました。
今後は引き続き痛み感知のメカニズム解明に取り組むとともに、同定した遺伝子が作り出すタンパク質に作用する薬の探索が次のステップです。そして最終的には依存性のないケアで痛みを取り除き、手術後の患者もがんの患者も心穏やかに過ごせるようにすることが研究のゴールです。
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