脳の発達を「非線形解析」で可視化する!
複雑な現象を解明する「非線形解析」
世の中のさまざまな現象の仕組みを明らかにしたいとき、たくさんのデータを集めて要素同士の関連を調べます。例えば「要素Aが2倍になると要素Bも2倍になる」というときは、データをグラフにすると直線になります。こうした関連性は「線形」と呼ばれます。
しかし、現実の物事はこのように単純な関係にあるものは少なく、多数の要因が相互に影響し合った複雑な仕組みで動いており、「複雑系」と呼ばれます。
そのような複雑な物事の仕組みを解き明かすのに適している分析方法に、「非線形解析」があります。形では単純化するために「ノイズ」とみなしてとり除いてしまうようなデータも、非線形解析では計算の中に組み込んで扱うことができ、より正確に研究対象の特徴や仕組みを知ることができます。
脳の発達過程を解き明かす
非線形解析を用いて行われた研究の一つに、マウスの脳の発達過程の解明があります。生まれてから15日目、20日目、30日目の脳の発達具合を見るために、マウスの脳内ニューロンの活動信号を電極1024個により測定しました。得られた活動信号データを発火頻度の時系列に変換し、これを非線形解析の一つ「アトラクタの埋め込み」を用いて可視化しました。始めはランダムな位置で活性化していた脳のネットワークが、日がたつにつれて規則性を持つようになっている様子が見られ、これまでの分析方法とは違う指標での観察が可能になりました。
iPS細胞や薬の影響の解析にも応用できる
このように、生き物の仕組みも複雑系の一種であり、そのメカニズムを研究しようとするときは、非線形時系列解析が適していると考えられます。今後の応用として検討されているのが、iPS細胞が時間と共に分化していくプロセスの解明や、薬を与えたときの時間ごとの状態の変化などがあります。
線形的な研究では考慮できなかった要素も取り入れての解析方法は、さまざまな「複雑系」をより詳しく解き明かせる手法として期待されています。
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