コンピュータ・シミュレーションで薬を開発する時代がすぐそこに
ヒトのゲノムはまだ9割が解読されていない
ヒトのゲノムが明らかになったと言うと、人間の遺伝情報がすべて解読されたかのように考えてしまいますが、本当はDNAの配列が明らかになっただけで、そのうち9割の遺伝情報はまだ解読されていません。しかも、個々の遺伝子の働きがわかっても、通常は複数の遺伝子が関連して働いているため、遺伝情報をすべて解読するには膨大な時間が必要です。
さらに、遺伝情報が明らかになったからと言って、これまで治らなかった病気が治るといったメリットはすぐにはもたらされません。薬を開発するには、生体内で起こる分子レベルでの化学反応を把握し、化学反応を起こす物質の互いの関係性を理解する必要があります。さらに、これらの情報をベースに新たな細胞を設計するコンピュータ・システムを開発します。ここまで行って、やっと創薬に結びつきます。このような、コンピュータを利用する「システム生物学」は21世紀のトレンドですが、まだ始まったばかりで、さまざまな課題があります。
まだまだ発展途上のシステム生物学
研究者は実験を繰り返し、生体内で起こる化学反応の情報を分子ネットワークとして蓄積していますが、調べるべき反応の数があまりに多いため、実験がすべて終わるまでに数十年かかると考えられます。その間、薬の開発を遅らせるわけにはいきません。そこで、わからない化学反応は推定することで創薬のための細胞の設計を行う技術が開発されています。また、多少精度には問題がありますが、1000個の化学反応を一挙に調べる方法もあります。
通常、工学的な設計ではコンピュータ上でほぼ完璧なシミュレーションが可能です。例えば、コンピュータ上で飛行機を設計して、実際に作れば、計算した結果と同じように飛ぶ飛行機ができます。しかし、システム生物学はその段階まで達していません。これは、細胞設計に必要な情報があまりに少ないからです。しかし、基礎的な情報が充実してくれば、画期的な新薬が数多く生み出されることになります。
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九州工業大学 情報工学部 生命化学情報工学科 教授 倉田 博之 先生
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