微生物の「村」生成を阻め! コミュニケーションシグナルの解明

微生物の「村」生成を阻め! コミュニケーションシグナルの解明

微生物のコミュニティ「バイオフィルム」

キッチンの水回りなどについた「ぬめり」を見たことがあるでしょう。ぬめりの正体は、微生物がコミュニケーションを取りながら形成した「バイオフィルム」です。自然界にいる微生物の大部分はバイオフィルムの状態で生活しています。歯に付着した歯垢(しこう=プラーク)もバイオフィルムで、その中にいる歯周病菌が炎症などの原因となります。微生物間のコミュニケーションやコミュニティの形成について、病気の治療や予防につなげようと研究が進められています。

微生物はシグナルでコミュニケーション

微生物はシグナル物質を介してコミュニケーションをしています。例えば歯周病菌は、お互いのシグナルで仲間がどのくらい近くにいるかを認識します。歯周病菌が少数で活動しても人の免疫機構に負けてしまうため、仲間が集まってから活動を始めるのです。環境中のシグナル濃度が高まると、協調的に遺伝子のスイッチが入って、コミュニティを作ったり毒性物質を作ったりと、集団で活動を開始します。
一方で、歯周病菌にはこのシグナルを不活化するシステムが備わっており、それには微生物の膜タンパク質が関与していることがわかってきました。まだ仮説の段階ですが、膜から作られた小胞がシグナルを包み込んでいると考えられます。歯周病菌のシグナルは広く微生物に共通するものなので、この不活化のメカニズムが解明すれば、ほかの病気の抑制に役立てられると期待されます。

バイオフィルムを抑制する食品成分

お茶のカテキンやきのこに含まれる成分には、バイオフィルムを抑制する効果があることがわかってきました。そのメカニズムはまだ研究の途中ですが、その成分が微生物同士のコミュニケーションに影響を及ぼしていると予想されます。
そのほか南極など特殊な環境の微生物や、抗生物質を作る放線菌の中でも植物の表面に住む種について、バイオフィルムを阻害する物質を作る可能性があるとして研究が行われています。

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先生情報 / 大学情報

山口大学 農学部 生物機能科学科 教授 阿座上 弘行 先生

山口大学 農学部 生物機能科学科 教授 阿座上 弘行 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

分子微生物学、応用微生物学

先生が目指すSDGs

メッセージ

本学には、私がセンター長を務める微生物研究センターがあります。ここには学内の30数名の研究者が集まり、酒造りなどに使われる発酵微生物、環境中に住む環境微生物、病気を起こす病原微生物の研究が行われています。この3つのすべてが研究できる機関は、日本でもここだけだと思います。環境微生物を使って病原性のメカニズムを調べたり、「発酵」と「病原」が協同でワクチン生産を研究したりと、部門を超えた融合研究も行われています。統合的な微生物研究がしたいなら、ぜひ来てください。

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