台湾文学を読みながら考える、中国語圏の近現代史と人々の生き方
世界に広がる中国語文学
現代中国語圏の文学研究では、大切な隣国である中華人民共和国の文芸作品のみならず、台湾や香港、マレーシア、シンガポール、さらには北米を中心に世界各地で暮らす華人や華僑が創作した作品を取りあげます。ここで言う文芸とは、小説やエッセイ、詩などです。複数の国や地域に目を向けることで、中国語圏における複雑な歴史や社会の様相、さらには作品に刻まれた人々の声を読み解くことが可能になるでしょう。そうしたなかで中国語圏文学研究の一角である台湾文学研究は、日本では1990年代以降に盛んになった比較的新しい学問分野なのです。
中国語圏文学研究のなかで考える日本語小説
台湾では19世紀末以来、日本の植民地統治が半世紀にわたって続きました。この植民地統治期初期に流行した文学作品のスタイルは漢詩文でした。その後1920年代には、北京や上海における文学革命の影響を受け、台湾でも中国語白話文(この場合の中国語とは北京語のことで、白話文とは口語文のこと)が流行します。30年代には台湾語白話文による創作も増え、それと同時に無視できない存在感を示したのが台湾人作家が日本語で書く日本語文学の急成長でした。中国語圏文学研究という大きな枠組みのなかで、日本語小説についても考えるという経験は学生にとって新鮮味のあることかもしれません。
文学作品と中国語圏社会での公共圏
戦後台湾の文学は中国語による創作が多彩で、非常に面白いです。1970年代までは中国での記憶をノスタルジックに描く物語や台湾の郷土の様子を内省的に描く物語が多く読まれてきました。80年代以降には民主化運動の流れから、台湾先住民による作品や環境保護をテーマにした作品が出現し、21世紀の現在ではLGBTQ文学の勢いが盛んです。一部の作品は中国でも大人気です。こうした台湾文学作品を通して中国語圏の近現代史の流れを知ることもできますし、中国語圏という社会空間の中で人々が何を尊重しどのように生きようとしているのかを知る手がかりにもなるはずです。
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