観光について考える テーマパークとして読み解く町並み保存観光地
テーマパークとしての町並み保存観光地
埼玉県川越市や岡山県倉敷市など、日本各地には、伝統的な町並みで人気の観光地が数多くあります。しかしこれらの町並みは、昔からずっと変わらず保存されてきたものであるとは限りません。実は、観光客の来訪やメディアの注目がきっかけでその魅力が再発見され、保存運動や整備が開始された事例も少なくないのです。そして、伝統的な町並みを作るプロセスは、「古き良き日本」をテーマに空間を統一しているという意味で、テーマパークの空間設計と共通する部分が多く存在しています。
地域住民は「キャスト」になれるのか?
空間設計以外にも共通点はあります。最近の町並み観光地では着物をレンタルしてSNS映えする写真を撮影するのが人気ですが、これはディズニーランドでカチューシャをつけたり「おそろコーデ」したりするのとそっくりではないでしょうか。どちらも、その世界に没入したくなる特別な空間があってこそ、そしてスマホやSNSといったメディアがあってこそ成立するものです。
一方、町並み保存観光地とテーマパークでは異なる点も多々存在します。一番の違いは、伝統的な町並みで暮らす人々は、「キャスト」ではないということです。観光客の来訪で町が混雑して困っているのに、テーマパークのキャストと同様の「おもてなし」を地域住民に求めることは果たして可能でしょうか。
観光を通して社会や文化について考える
観光について研究する学問分野を「観光学」といいます。ただし観光学は、観光客誘致による地域経済の活性化を研究するだけではありません。
テーマパークや地域の観光地といった身近な事例を入り口に、町並み保存と伝統文化の関係、スマホをはじめとしたデジタルメディアを通じた新たなコミュニケーションのあり方、そして観光地で暮らす人々の生活について考えることもまた観光学の対象です。観光学は、観光からその背景にある社会や文化について考察し、より良い地域社会や、もっと楽しい観光の未来について研究できる学問といえるでしょう。
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