「言葉」から考える、中国との外交

「言葉」から考える、中国との外交

似ているからこそ気をつけるべき言葉づかい

中国との外交で気をつけるべきことの一つは、言葉づかいです。例えば、総理大臣が北京に行って「日中戦争で多くの日本人も犠牲になりました」と日本語で言ったとします。しかし、中国語で「犠牲」とは、正義のために人が死ぬことです。侵略した側が「犠牲」という言葉を中国語に翻訳してそのまま使うと、それは相手を挑発することになります。また、2012年にあった尖閣諸島(釣魚群島)の国有化問題もそうです。これは、あるメディアが国有化問題という言葉を使ったために大問題となりました。日本だと、国有化とは私有地から国有地へという所有権の変更にすぎませんが、中国には私有地は存在しないので、国有化とは事実上の領土化です。領土ではないものを勝手に購入して領土にした、という意味になってしまうのです。このように、同じ漢字を使う国同士だからこそ起きる問題もあるのです。

国際連合と連合国は同じもの?

2005年に、日本が国際連合安全保障理事会の常任理事国入りするという話が出ると、中国は猛烈に反発しました。これも、言葉や概念に対する歴史的認識を理解していなければ、意味がわからないでしょう。中国語で国際連合は連合国と言います。第二次世界大戦の勝利陣営である「連合国」と同じです。実際、英語ではどちらもUnited Nationsですから、連合国と国際連合は、実質同じものなのです。ですから、なぜ敗戦した日本が国際連合の常任理事国に入るのか、というのが中国側の怒りの理由です。では、どうして日本では連合国ではなく、国際連合という異なる呼称を用いているのでしょう。

歴史に学ぶべき外交上の注意点

このような外交上の出来事や問題を詳細に知るには、歴史的な外交文書を調べることが有効です。歴史研究とは、人やメディアが政治的な解釈を交えてしてきた話に対して、1つずつ丁寧に史料から検証して、過去の事実を明らかにする分野です。そこから、今後のなすべき対応を導き出したり、社会に対して働きかけたりもできるのです。

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東京大学 教養学部 教養学科 教授 川島 真 先生

東京大学 教養学部 教養学科 教授 川島 真 先生

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国際関係史、外交史学

メッセージ

学校で習うことの内側に自分を閉じ込めて、それ以上のことは知ろうとしないということが一番よくありません。教科書や教わることを疑い、その先に行ってほしいと思います。自分で自分の限界をつくり、自分の可能性を閉じ込めてほしくありません。
歴史の教科書が毎年少しずつ変わっているように、今のあなたが私の年になる頃には、東アジアの地図は変わっているかもしれません。今後、世界や日本はどうあるべきかをしっかり考えましょう。そのためにはむしろ、人類のさまざまな可能性と経験を示した歴史の勉強が役立ちます。

先生への質問

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