絵を「上手く」描くだけではない、美術教育がもつ多様な価値観
絵の「上手・下手」
統計によると、小学校低学年から中学校3年生までの間に、「美術や図工が嫌い」という人が7.7%から29%まで増加します。さまざまな要因が考えられますが、写実的な絵が「良い絵」とされ、そうでなければ評価されないといった、美術教育に根付く古い教育的価値観も大きな要因です。写実的に描くことが苦手な子どもは周囲の目を気にするようになり、どんどん美術が嫌いになっていきます。しかし、芸術とは本来「思考の遊び」であり、「眼差し」が大切なのです。アイデアを面白がったり、失敗してもどうリカバリーするかを楽しんだりと、「上手・下手」に収まらない多様な評価基準が存在します。
価値が生まれる瞬間
絵画は「正面から見るもの」という常識がありますが、例えばキャンパスに厚みをもたせたり、角度によって異なる絵が見えたり、見る者の立ち位置によって見方を変えることもできます。また、西洋絵画のような写実的な技法だけでなく、明瞭な輪郭線やフラットな構図をもつ漫画的な手法も存在します。それまで誰も見向きもしなかった素材やアイデアが、気付きやチャレンジ精神によって価値のある「何かに」変わることは、美術ならではの面白さです。こうした多様なモノの見方や表現技法は、答えのない問題を解決していこうという現代の教育に求められる価値観にも通じるものです。
美術教育の役割
また、現代の美術教育には「ESD(持続可能な開発のための教育)」の視点も重要です。例えば過疎化する地域の活性化や持続可能性に貢献している「芸術祭」に子どもたちを参加させて、鑑賞や表現活動を通して地域課題について考えさせること、あるいは和紙やキャンバス、彫刻刀やバレンといった、作り手不足から持続可能性が危ぶまれている美術道具について議論することも有効です。
美術教育とは、芸術家を志す人のためだけにあるのではありません。柔軟な発想をもって世の中のいろいろな課題について考え、自分たちの力で解決へと導く力を養うことも、美術教育の大切な役割なのです。
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先生情報 / 大学情報
横浜国立大学 教育学部 学校教員養成課程 准教授 河内 啓成 先生
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