祈りの対象としての「仏像」の本質とは
仏像はただ修復すればいいものではない?
日本には、遠い昔からの歴史の積み重ねの中で、人々の信仰の対象となってきた仏像が数多く存在します。古い仏像には、塗りがはがれたり、部分的に傷んだりしたものも多く、それらには修復を施す必要があります。しかし仏像の修復作業は、単に壊れたところを継ぎ足したり、色を塗り直したりすればいいとは限りません。文化をとらえ直す視点から「文化財」として仏像を扱い、その潜在的な価値を引き出そうとする考え方が必要になります。
塗り直したことで消えてしまった価値
例えば、日本のあるお寺が、傷んだ古い仏像を修復したいと考えて、仏具屋さんに依頼すると、おそらく9割の確率で、全体を修理して塗り直されます。そうして修理された仏像は、見た目には確かに「きれい」になっているのですが、昔から長い間その仏像に祈りを捧げてきた人たちは、違和感を持つことも少なくありません。その仏像が長い歴史を経るうちにまとってきた「深み」のようなものが、きれいに修理されたことで消えてしまったからです。
その仏像のどんなところに人々は心を動かされていたのか、何に対して畏敬の念を抱いていたのかによって、きれいに直すのではなく、別の方法で修復する方がふさわしい場合も多くあります。仏像の塗りがはがれて痛々しくなっていたとしても、塗り直さずに無彩色のままにする方が、その仏像本来の価値を表す姿により近づくこともあるのです。
仏像の価値の中核にあるものを見定める
仏像の修復では、その仏像に関わるさまざまな人の立場を理解した上で、その仏像がなぜ祈りの対象として敬われてきたのか、仏像自体の価値の中核にあるものを見定める必要があります。その根底には宗教と芸術の密接な関係性があります。今の私たちがアートと呼ぶ人の感性に働きかける作用、その点において仏像はまさに美術作品です。その力が直接的に人と仏像をつないでいます。したがってそれぞれの像の彫刻造形性を把握し、継承しようとする行為は、人と仏像との関係をつなぎ直す取り組みなのです。
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先生情報 / 大学情報
立正大学 仏教学部 仏教学科 教授 秋田 貴廣 先生
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