患者の尊厳と医療の安全との両立 求められる「ケアの倫理」

患者の尊厳と医療の安全との両立 求められる「ケアの倫理」

本当に幸せなケアとは?

肺炎で緊急入院した、認知症の患者がいるとします。こうした患者が点滴や酸素マスクなどを自分で取り去ろうとすることは珍しくありません。安全な治療を優先するために、やむをえず患者をベッドに拘束するケースも見られます。しかし身体的な拘束をすると治療後も寝たきりになる可能性があるとわかっています。病気は治っても寝たきりになるのは、患者にとって幸せなケアでしょうか。こうした疑問から新たに生まれた考え方が、「ケアの倫理」です。

患者の視点で考える

ケアの倫理は、患者に寄り添って答えを見いだしていくアプローチです。患者の視点で考えてみると、認知症になって記憶力が低下し、状況の変化に適応する力も弱まっています。さらに肺炎で意識がもうろうとする中、急に景色が変わり知らない人に囲まれて点滴や酸素マスクをされたら、恐怖を感じて外したくなるでしょう。ほかにもトイレに行こうとしたら点滴が邪魔だったなど、さまざまな原因があるかもしれません。理由がわかれば、身体拘束以外の適切な対処ができます。このようにケアの倫理を実践すると、患者の尊厳と治療の安全性の両立が可能だとわかってきました。

ケアの倫理を広めるために

ケアの倫理に必要な能力を探る研究も行われています。ケアの倫理を実践している看護師たちへの聞き取り調査が行われ、成果を上げている人に見られるコンピテンシー(行動の特徴)をまとめたモデルが作られました。モデルのひとつが「フィジカルアセスメントから患者の主観的な苦痛を推し量る」能力です。患者の状態や症状をきちんと観察して、そこから考えられる苦痛を想像します。病状を客観的に見るだけでなく、患者に寄り添って、その人が置かれている状況をその人の視点で深く理解することがケアの倫理の実践につながるといえます。
このコンピテンシーモデルを使った看護師の研修も始まりました。さらに看護師以外の医療従事者にもケアの倫理を広めていこうと、ほかの職種に対してもコンピテンシーモデルの信頼性の検証が行われています。

※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

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姫路大学 看護学部 看護学科・看護学研究科 教授 片山 はるみ 先生

姫路大学 看護学部 看護学科・看護学研究科 教授 片山 はるみ 先生

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基礎看護学

先生が目指すSDGs

メッセージ

自分の価値観と違うものに、「理解できない」と感じた経験はあるでしょうか。あまりにも価値観が違うものに直面すると、多くの人は拒否したり避けたり衝突したりするものです。しかし相手の視点に立ち、同じ世界を見て「なるほど!」と納得した瞬間、自分の世界も広がります。「自分と違う価値観を受け入れる」という意味での共感ができれば、いい看護師になれると思いますし、ほかの職業を選んだ場合でも、あなたの強みになってくれます。ぜひ私と一緒にケアの倫理を学んで、共感の力を育んでみませんか。

先生への質問

  • 先生の学問へのきっかけは?
  • 先輩たちはどんな仕事に携わっているの?

姫路大学に関心を持ったあなたは

姫路大学では、近畿大学創立者世耕弘一先生の説かれた「教育の目的は、人に愛される人、人に信頼される人、人に尊敬される人の育成にある」を建学の精神とし、他人や自然を思いやる、いわゆる「共生の心」を備えた人材の育成を目標としています。看護学部と教育学部の2学部体制で人の“いのち”と“成長”という側面からアプローチし、総合的視野を持った専門職業人の育成に取り組んでいます。