「爪切り」という日常的な行為から考える、看護師の役割
糖尿病患者の足のケア
現代の日本では、糖尿病の患者数が増加する一方です。糖尿病の治療においては食事療法や運動療法、あるいは薬の使用といった自己管理が大切であり、その中には足のケアも含まれます。
糖尿病では、合併症として神経障害が起こり、足の感覚が鈍くなることがあります。極端な場合は、釘を踏んでも気づかなかったり、爪が伸びて爪が皮膚に刺さっていても気づかないこともあります。さらに血流障害を併発している場合はその傷の治りが遅くなり、治療が長期化したり、ひどい時には切断に至ることもあります。また、一般の人より白癬(はくせん=水虫)を患う人も多く、そうなれば足のケアは一層難しくなります。
現場の課題
こうした糖尿病患者の爪のケアを行うのは看護師ですが、以前、患者の爪を看護師が切った際にけがが起こり、傷害罪に問われるという事件が発生して以来、看護師による爪切りを控える病院が増えています。あるアンケート調査では、ほとんどの看護師が看護学校などで患者の爪の切り方を教わった経験がなく、自分の爪を切る感覚で患者の爪を切っていることがわかりました。深く切るのか浅く切るのか、角を残すのか丸く切るのか、といった看護師自身の好みを患者に適用する形になっており、患者から嫌がられたり、けがにつながったりするケースもあります。
療養上の世話
看護には、「診療の補助」と、洗髪や食事の介助、そして爪切りを含む「療養上の世話」という役割があります。洗髪や食事、爪切りは日常的に行う行為ですが、いざそれを患者に行おうとすれば勝手が変わるため、専門的な技能が求められます。特に伸びすぎた爪や変形した爪、糖尿病患者の爪に対しては、看護師によるケアが必要とされています。医療現場における爪切りの実態を明らかにして、爪の状態や特徴に合わせた適切な切り方やタイミング、手入れなどを理論化して医療現場に還元していくことも、看護学の重要な役割なのです。
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