光のピンセットで雲をつまんで、気候変動を予測する!?
雲の水滴は-40℃でも凍らない
雲は、大気に含まれる水蒸気が上空に昇り、気温が低下することで微小の水滴と化して大量に集まったものです。しかし、細かい発生条件などのメカニズムに関しては、解明されていないことが多くあります。例えば、雲の水滴がさらなる気温低下によって氷に変化する温度は0℃よりずっと低いということは知られていますが、正確に何度なのかはわかっていませんでした。上空の雲の中の環境を実験室で再現することによって、その温度が-40℃以下であることが確認できました。
雲に触れずに「つまむ」技術
この実験は、光の圧力を利用して微粒子を1粒ずつ「つまむ」ことのできる「光ピンセット」という技術によって実現しました。この技術は1986年に確立されて、主に生物学の分野で利用されてきたものです。
水滴は温度が0℃以下になると、過冷却という「液体でありながらもわずかな刺激で凍りやすい状態」になります。物体に触れるとすぐ凍ってしまうので、固定しての観察が困難でした。光ピンセットの場合は、光を使っているため物理的には物質に触れていません。つまり、雲の粒子を空中に浮遊した状態に保つことで、凝固点(固体になる温度)を正確に計測できるのです。
気候変動予測のカギを握る雲
雲は空気中にあるさまざまな化学物質の微粒子(エアロゾル)を核として発生しますが、その化学物質は多様であり、エアロゾルの種類によっても雲の発生条件は異なります。光ピンセットを利用して、雲の1粒ずつの性質を調べることが出来るようになってきました。今後は、実験室における分子レベルの研究が気象研究に変化をもたらすかもしれません。
現在、地球温暖化や豪雨災害などをもたらす気候変動が問題となっています。気候変動を予測する際の要素のうち、最大の不確実性は雲の存在であると言われています。雲の発生メカニズムの解明が進めば、気候変動の予測精度が格段に上がることが期待されています。
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広島大学 理学部 化学科 教授 石坂 昌司 先生
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