「見る」健康を守る薬を探す
20人に1人がかかる緑内障
緑内障は、現代では40歳以上の日本人の20人に1人がかかるといわれている眼の神経変性疾患です。眼から入った情報を脳に伝達する視神経に障害が起こり、視野が狭くなり、治療が遅れると失明に至ることもあります。現状、有効な治療法は眼圧を下げることだけなので、眼圧を下げる薬を使った治療が行われています。ただ、日本では、半分以上の緑内障患者の眼圧は正常の範囲ですので、眼圧が十分に低下しない人や眼圧が低下しても視野が狭くなり続けてしまう人もいます。病気の根源である視神経に働きかける薬はまだ実用化されていません。
緑内障の薬を探し出す
薬理学では、病気の原因を解明し、その病気に作用する薬を探します。緑内障についても、類似の病態を示すモデル動物を使って、なぜ網膜の神経細胞に障害が起こるのかを探ります。また、すでにほかの病気の治療に使われている薬が、まだ知られていない別の効果を併せ持っていることがあります。効果が期待できそうな既存の薬をモデルマウスに投与して、その結果の評価を行います。新しい緑内障の治療薬の候補として、網膜の神経細胞を保護する薬や、網膜に張り巡らされた血管の循環改善効果がある薬が考えられています。
もし網膜の神経細胞を保護する薬が見つかれば、脳の神経変性疾患であるパーキンソン病やアルツハイマー病への効果も期待できます。循環改善薬であれば、中枢の循環の改善が必要になる脳梗塞の後の治療に使えるかもしれません。眼の薬理学の研究成果は、いろいろな分野に広がる可能性があるのです。
一生涯、生活の質を維持するために
現在は情報化社会のために、眼の不自由はQOL(生活の質)を大きく下げる要因になります。一生にわたって眼が健康でいられることは、生きていくうえでとても大切です。しかし、日本国内では眼の薬理学を専門とする研究者は少なく、特殊な研究技術を扱える人材も少ないのが現状です。これからますます高齢化する社会に向けて、さらなる研究と人材確保を進めていく必要がある分野なのです。
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先生情報 / 大学情報
帝京大学 薬学部 薬学科 教授 坂本 謙司 先生
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