アサガオで知る大気汚染 「見えない」が「見える」メカニズム

大気汚染を知らせるアサガオ
地表付近の対流圏では、工場等から排出された窒素化合物や揮発性の有機化合物は、光化学反応を起こしてオゾンに変わります。成層圏のオゾン層は紫外線を防ぐために必要ですが、地表付近で一定の濃度を超えたオゾンは生物にとって毒となる存在です。オゾン濃度が高くなると、植物の細胞は死に至り、森は衰退し、農作物の収量は落ちてしまいます。また、人間にも、目がチカチカする、のどが痛くなるなどの影響を及ぼします。
オゾンは目に見えませんが、アサガオは品種によってはオゾンを敏感に感知して、葉に見てすぐわかる障害(白斑など)を生じるため、1970年代からオゾンの調査に用いられてきました。埼玉県や名古屋市では、一般市民も協力して、「スカーレットオハラ」という品種のアサガオによるオゾン被害状況の調査が進められています。
アサガオのオゾン防御メカニズム
アサガオは日本人にとってなじみの深い植物です。江戸時代から多くの園芸品種が作られてきているため、形態形成に関わる遺伝子も多くわかっています。最近、これまでオゾンの調査に使われてきたスカーレットオハラよりもオゾン感受性が高い品種があることがわかってきました。この品種では、育てる場所によって白斑の出方に違いがあるため、何らかの防御機構が存在することが考えられます。美しいアサガオの研究が、大気汚染による植物の枯死を止める未来を導く可能性があるのです。
細胞死を招くメカニズム
植物が気孔からオゾンを取り込むと活性酸素が発生し、細胞死に至ります。シロイヌナズナなどを用いた研究で、オゾンに対する植物の応答機構がかなり詳しくわかってきました。遺伝子操作によってオゾンへの感受性が低い変異体が作られて、どの遺伝子がオゾン耐性に関わっているかが調べられています。植物に共通する細胞死のメカニズムがあると考えられることから、研究が進めば、今後オゾン耐性のあるイネの品種を作ったり、オゾンの影響を受けにくい森林のあり方をデザインしたりできるようになるかもしれません。
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