生命進化のカギを握る「プリン体」は、悪者じゃない!

生命進化のカギを握る「プリン体」は、悪者じゃない!

プリン体の大事な働きとは?

生物は食物を分解し、体に必要なものを合成します。これが「代謝」です。分解経路はさまざまですが、最終的にはATPというエネルギー物質に変換され、これもいわゆる「プリン体」に当たります。プリン体は、細胞の中でプリンヌクレオチドの形で合成され、核酸などに含まれる成分としても必要不可欠なものです。プリン体というと人間に害を及ぼすイメージがありますが、そもそも過剰摂取することに問題があるのです。

代謝から生命の起源を探る

プリンヌクレオチドの重要な役割は核酸の材料となることです。核酸は遺伝に欠かせないため、プリンヌクレオチドの合成は生物が最初に獲得したシステムだと考えられます。現在、プリンヌクレオチドを合成する代謝系酵素は15種類あまり確認されていますが、生物の進化の戦略として、1つしかなかったものを2つにし、機能を複雑化していったと考えられます。したがって、プリン代謝において最初に必要だった酵素(遺伝子)群を絞り込むことができれば、生命の起源を探れる可能性もあるのです。

代謝メカニズムの解明から、抗がん剤開発へ

2000年代に入り、大型加速器を使ったタンパク質の立体構造解析が行われるようになり、細胞の中でミトコンドリアがATPを作る仕組みなどが明らかになりました。しかしプリンヌクレオチド合成など基本的な代謝の細胞内での働く姿などまだ解明されていないことも多く、研究の余地を残しています。
一方、これらの研究の応用として考えられるのが、新薬開発です。例えば、「がん」は無制限にエネルギーを使い、異常な細胞を増やす病気です。しかし合成自体を止めてしまえば、がん細胞を殺すことができるはずです。実は既にプリン体を使った抗がん剤もあるのですが、より詳細な代謝のメカニズムがわかれば、さらに画期的な薬が作れる可能性を秘めているのです。

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先生情報 / 大学情報

電気通信大学 情報理工学域 III類(理工系) 化学生命工学プログラム 教授 三瓶 嚴一 先生

電気通信大学 情報理工学域 III類(理工系) 化学生命工学プログラム 教授 三瓶 嚴一 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

分子生物学、構造生物化学

メッセージ

私は「プリン体」の代謝についての研究をしています。この研究は菌を培養し、そこからタンパク質やDNAを採取することでようやく始まります。そういう意味では非常に手間がかかりますし、しかも思うような結果が得られないケースも多々あります。しかし結果がすぐに出ないからこそ、目的を遂げたときの達成感は大きいことでしょう。
どんなことにも通じることですが、焦って結果を求めず、過程を楽しむよう心掛けてください。ミクロの世界から見ることで、生命への見方が変わるかもしれません。

先生への質問

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電気通信大学は、東京にある理工系国立大学で、「工学」と「理学」のうち、特に情報分野および理工分野を核とした教育研究を行っています。先端科学技術を支える全分野、例えば、情報、通信、電子、知能機械、ロボティクス、光科学、物理、量子、化学、物質、生命などの分野を網羅しています。社会で活躍する人材の育成をめざし、ものづくりに意欲を燃やす学生の期待に応える教育環境を提供します。