「毒」が新たな医薬品開発のヒントになる
体内に毒を持つ海洋生物たち
海に生息する海洋生物の中には、毒を持っている生物が存在します。もっともよく知られているのはフグで、他の魚などに捕食されないための生体防御として、内臓や生殖器など体内に毒を蓄えています。フグの毒に解毒剤はなく、人間が中毒になると、死に至る場合もあります。また、イモガイと呼ばれる種類の貝は毒銛(もり)を備えていて、餌にする魚に突き刺して捕らえたり、外敵から身を守るために使ったりしています。他にも、海綿動物などの海洋無脊椎動物の一部にも、体内に毒を持っている生物が存在します。
毒はどのように作用するのか
フグが持っている毒は、神経毒と呼ばれる種類の成分です。人間をはじめとする生物の神経は、神経伝達物質により制御されていますが、フグの神経毒は神経伝達物質の移動に関わるタンパク質の動作を阻害し、結果としてまひを引き起こします。ヒトの場合、中毒になると呼吸困難に陥り、最悪の場合は死に至ってしまうのです。イモガイも、フグの毒とは異なる種類の神経毒を持っていて、毒銛を突き刺した相手の神経をまひさせる力があります。
毒を応用した医薬品の開発
こうした海洋生物が持っている神経毒を分析して、医薬品の開発に応用する研究が盛んに行われています。フグの毒はまだ開発中ですが、イモガイの毒を基に開発された鎮痛剤はすでに米国で医薬品として承認されています。モルヒネをはるかに上回る鎮痛効果を持ち、くりかえし服用しても耐性ができにくいという特徴を備えています。この他にも海洋生物をはじめとする自然界の生物に存在する毒の成分は、薬理活性が強く、効果の高い医薬品を開発するための素材として期待されています。
例えば、ホヤや海綿動物からは毒成分を基にして抗がん剤の開発されています。このように海洋生物が持っている毒には、未知の可能性が眠っているのです。
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