脇役・端役から読み解く『源氏物語』とそのリアリティ
大勢の登場人物が織りなす世界
古典文学の金字塔と名高い『源氏物語』は、平安の都を舞台とした長編物語です。登場人物は全部で500人以上いるとされています。このうち、主人公の光源氏をはじめとする主要人物の大半は、貴族階級の中でも最も上流の階級に属しています。
このような上流階級の貴族たちは、多くの従者や女房(侍女)に取り囲まれて生活していますから、『源氏物語』にもそうした人々が脇役・端役として物語の随所に登場します。ともすると見過ごしてしまいそうな存在ですが、彼らには彼らの人生が、そして思惑があり、ときには主要人物たちの運命をも変えることがあるのです。物語の脇役・端役に注目することで、これまでは見逃されていた物語の新たな側面を見つけ、従来の読み方を相対化させることも可能になります。
端役から読み解く『源氏物語』
『源氏物語』は主要人物だけでは成り立たず、周辺に脇役や端役がいることによって、平安時代の貴族社会が立体的かつ現実感をもって浮かび上がります。例えば、光源氏がはかなげな謎の女性と出会い、ひと夏の恋に酔いしれる「夕顔」巻では、二人の出会いのきっかけとなる夕顔の花の名を光源氏に教えたのが、彼の外出を警護していた随身でした。「夕顔」という名前こそ一人前だが、光源氏が住むような大邸宅ではなく、身分賤しい家の軒先に咲く花なのだという随身の説明は、その後の物語の展開と結末を図らずも予感させるものでした。わずか数回登場する端役の言葉が、物語全体の方向性を定める重要な役割を果たしているのです。
古典を支えるリアリティ
一千年前に成立した『源氏物語』は、時代ごとに読者が作品の価値を認め、次の時代にバトンをつなぐことで読み継がれてきました。私たちが生きている時代とは文化も常識も異なる物語に共感できるのは、作品に登場する人間やその心理描写に圧倒的なリアリティがあるからです。原文に触れ、一語一句にこだわって読み込んでみると、行間に隠れていた意味が浮かび上がって、物語の読み方がより豊かになっていきます。
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