創薬を支える! タンパク質のメカニズムを解明
10万種類ものタンパク質の機能
私たちの体には約10万種類ものタンパク質が存在します。このタンパク質の営みが「臭いがする」「味がする」などの生理現象や病気と関係しており、そのメカニズムについてX線を用いて科学的に研究するのが「構造生物学」という学問です。タンパク質に使用されているアミノ酸には20種類あり、元素にすれば僅か5種類です。金属など、あと数種の元素を使って10万種類もの機能があるのは、タンパク質を構成している原子の配置がそれぞれ違うからです。
構造解析でわかる「変異株」の感染力の強さの理由
新型コロナウイルスについても、ウイルスのタンパク質の結合の様子を構造解析することで、さまざまなことがわかります。当初は「武漢型」が主流でした。その後「英国型」や「南ア型」などさまざまな変異株が発見され、ウイルス側のアミノ酸がどのように変わったら、元のウイルスより強く感染するのかを知ることができます。
例えば、武漢型のたった1つのアミノ酸が変化し、手を取り合っていたアミノ酸の間に距離ができて動きやすくなった上に、ヒトの受容体との結合部位にさらにウイルスの変異が入り、感染力が強まったということも構造から理解できます。タンパク質の構造の何番目のアミノ酸がどう変わったために抗体やワクチンが効かなくなるのか、逆にどの部分を捕まえれば抗体が有効か、構造を見ながら議論することができます。
創薬に役立つ構造研究
タンパク質の構造や機能を調べることは、創薬にも役立っています。例えば、2010~2016年に日本の厚生労働省にあたるアメリカの「FDA」に承認された210の薬のうち、184は構造研究をベースに作られたものです。このことからも、タンパク質の構造研究が創薬にとって重要な役割を果たしていることがわかります。インフルエンザの薬「タミフル」は、まさにタンパク質の構造研究の結果、生まれた薬です。今後も構造研究が進むことで、新型コロナウイルスの特効薬や変異株に対応するワクチン開発などへの貢献に繋がるでしょう。
参考資料
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大阪大学 薬学部 薬学科 教授 井上 豪 先生
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