心と行動をめぐる「なぜ」を大切にしよう

心と行動をめぐる「なぜ」を大切にしよう

「やればできる!」と言われて、やる気が下がる?

心理学では、人の「心」の一般的な傾向と、人それぞれで異なる「心」の違いの両方が研究の対象です。たとえば自分や物事についてポジティブに考えるとモティベーションが高まり、はじめから無理とあきらめるよりも望ましい結果が得られやすいでしょう。だから「やればできる」と励すことはたいてい有効なのですが、逆にパフォーマンスが落ちてしまう人もいます。なぜでしょう。どうやら、「自分ができる」とは思わないようにして、準備を怠らないように工夫しているようなのです。「心」の一般的な傾向を明らかにすることで、同時にその個人差もとらえることもできるようになります。

心理学の答えの探し方

他者の行動や自分の行動に対してでさえも、「なぜあんなことをしたのだろう」と疑問を感じることがあります。この答えを見つけるために、周りの人の話を聞いたり自分の経験に基づいて自問自答することはとても重要です。ただし私たちの意識の働きには限界があり、行動の本当の理由に気づくことはできないことも指摘されています。そこで心理学は、人の行動や心で起こる現象の理由やプロセスを明らかにするため実験的な手法を用いています。「心」の主観的な意識的な側面も考慮しつつ、客観的に科学的に解明しようとする姿勢に心理学の特徴が現れています。

自分の問いの意味を考える

たとえば「子犬をかわいいと感じるのはなぜか」と疑問をもった人はどんな答えを探しているのでしょうか。子犬の外見のせいか(目が大きいから)、その人の欲求のせいか(癒やされたいから)、育った経験によるか(以前犬を飼っていたから)、体内の物質が関連するか(オキシトシンが分泌されるから)、ヒトの心の進化と関係があるのか(ヒトの祖先が犬と生活するようになったから)など、考えることができます。これらの疑問は一見ばらばらに見えますが、いずれも心理学で研究されています。自分の問いの意味を考えることで、自分に合った心理学の専門分野を見つけることができるでしょう。

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先生情報 / 大学情報

学習院大学 文学部 心理学科 教授 伊藤 忠弘 先生

学習院大学 文学部 心理学科 教授 伊藤 忠弘 先生

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社会心理学、教育心理学、進化心理学

メッセージ

心理学というとカウンセラーのイメージが強いかもしれませんが、この学問の背後にある「人とはどういう存在か」という哲学的なテーマとそのテーマにアプローチする科学的な方法論に魅力を感じます。この問いの答えは1つとは限りませんし、最適な答えが見つからないかもしれません。だから心理学を志そうとする方に、他者の気持ちがわかるよ、とか、自分の性格を変えられるよ、などと伝えられないことにもどかしさを感じます。それでも「人」に魅力と面白さを感じている方ならば、その見方を豊かにしてくれることは間違いないと思います。

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