人生を振り返り、自分を見つめ直す、「想い出話」の力
人の心は生涯にわたって「発達」する
高齢者と会話をすると、よく自分の幼い頃の出来事などの話をすることがあります。あなたは、想い出話というと、前向きではない、過去にとらわれている、といったネガティブな印象を持つかもしれません。また、高齢者が昔のことばかり話すのは、体とともに心も衰えてきた表れと思っているのではないでしょうか。ところが、1950年代頃から、心理学者のエリクソンは「人の心は生涯にわたって発達する」という「ライフサイクル論」を提唱しました。心理学の「発達」とは加齢による心の成長・変化を意味しており、現代の学問分野の一つにもなっています。そして、高齢者の想い出話は、高齢期に生じる心の自然な作用と考えられているのです。
過去をとらえ直し、自分を見つめ直す
エリクソンは、高齢期の心の発達は「自分の人生を統合すること」が課題であると定義しています。人は生きていく過程で、さまざまな喜びや楽しみ、苦しみや悲しみを経験します。それらを「時間」という距離を置いて振り返ることは、自分の人生や置かれた環境などをとらえ直し、自分自身を見つめ直すことでもあります。そして、過去や自分自身をその人なりに受け止め、肯定していくことにもつながります。高齢者の中には想い出話をするうち、自分の人生は平凡ではあったものの、家族に囲まれた豊かな人生だったと受け止め方が変化していく人もいます。このような心の働きを促す力が、想い出話にはあるのです。
高齢者の支援や心のケアにも活用
想い出話は、誰かに話す・伝えるという体験によって、自己の肯定感につながると言われています。最近ある自治体では、孤立した高齢者をサポートしていくため、同世代のグループで想い出話をするというプロジェクトを始めています。また、初期の認知症の人に対して、想い出話を取り入れた「回想法」という心のケアも行われ、成果を上げています。「想い出話」をポジティブなものとして活用していく取り組みが始まっているのです。
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先生情報 / 大学情報
大阪公立大学 生活科学部 人間福祉学科 准教授 篠田 美紀 先生
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