民主主義は守れるか? マンハイムが危惧した大衆の危うさ
選挙で選ばれたからOK?
「民主主義」と聞けば、選挙などの制度のことと思われがちです。しかし制度が整っても、民主主義を内側から破壊するものを生み出す社会は「大衆社会」と呼ばれました。20世紀初頭の欧米では、工業が高度化して社会の機械化・合理化が進みました。仕事と人口が都市に集中し、個人の自由が重んじられる反面、古くからの人のつながりは薄れて人々は不安と孤独を感じます。そして世界大恐慌でのパニックに乗じて、ドイツではナチ党が選挙で躍進してアドルフ・ヒトラーが権力を握りました。政治制度としては民主的でも、独裁者を生むような社会だったのです。
シンプルさに弱い大衆の危うさ
映画やラジオ、新聞などのメディアを巧みに操るヒトラーは、シンプルな強い言葉を繰り返すことで、不安を抱える大衆の心をつかみました。独裁者だけでなく、大衆に対しても批判的な目を向けたのが、ユダヤ人社会学者のカール・マンハイムです。ナチスによる迫害を逃れてドイツからイギリスに亡命したマンハイムは、社会の激しい変化に耐えられず、不安を解消してくれそうなら危険な人物でも熱狂的に支持する大衆心理の危うさを指摘しました。またそうした現象は、ドイツに限らずあらゆる現代社会で起こりえると考えました。
民主的な人間を育てる市民教育
ファシズムが敗北した後、マンハイムの思想は忘れられがちでした。しかし今の時代、アメリカのトランプ氏をはじめとする「ポピュリスト政治家」が熱狂的な支持を集めて排他的な政治を展開していることからも、マンハイムの危機感が現代に通じることがわかります。彼は、民主主義をより成熟させるには市民教育が不可欠と考えました。民主主義は完全ではなく、ときに面倒なものです。マンハイムは、わかりやすい言葉や権威に惑わされず、特定の考えが絶対だと決めつけることもなく、対立する相手とも一致できる点を粘り強く探す「民主的な人間」を育てようとしました。社会学者としてだけでなく、民主主義を守ろうとした思想家としても多くの知的遺産を残したのです。
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創価大学 国際教養学部 国際教養学科 教授 山田 竜作 先生
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