建築構造物の地震被害軽減にAIで立ち向かう
日本の地震と構造物被害
日本は世界でも非常に地震の多い国であり、世界で発生する大規模地震の約2割近くが日本の周辺で発生しています。このため、建築物や土木構造物は大規模地震に耐えられるように設計されていますが、現段階では残念ながら完全に構造物の被害を防ぐことはできません。そこで、建築構造物の被害軽減や迅速な災害復興、さらにより丈夫な建物の設計方法や補修・補強方法を提案することを目的に、AIをはじめとする最新技術を活用した研究が進められています。
AIの活用方法
地震が発生すると、建物の安全性を迅速に評価する必要があります。この評価の一つとして、被災建築物応急危険度判定があり、建物の危険度が赤・青・黄色で判定され、判定結果が建物に貼られます。しかし、地方の過疎化や判定員の不足が問題となり、迅速に対応できない状況が生じています。そこで、カメラで撮影した建物を、過去の被災状況とその判定結果を学習したAIが評価する方法が考案されました。また、コンクリート構造物の被害調査では、従来、ひび割れの幅(太さ)を計測するため、クラックスケールと呼ばれる定規を使用し、調査員が目視で判定していますが、これについてもAIを活用し、写真からより早く、より正確にひび割れ発生量を計測する技術が開発されています。さらに、これらの技術とドローンを組み合わせられるようになれば、より広範囲で立ち入りが難しいエリアでも、被災状況を瞬時に把握できると期待されます。
実験や解析への利用
建物の構造性能は、構造実験や解析で評価されます。つまり構造物を再現した試験体を作り、地震を模擬した条件で破壊する実験を行って、コンピュータで破壊現象を再現します。ここでもAIを活用することで、より効率的に実験結果や構造性能を評価できないか検証されています。このような研究により、地震の被害を最小限に抑える新たな手法や技術の開発が進んでいます。AIの活用により、地震災害への備えが一層強化され、より安全な社会を実現する可能性が広がると考えられます。
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先生情報 / 大学情報
室蘭工業大学 理工学部 創造工学科 准教授 髙瀬 裕也 先生
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