晴れの日に傘を貸し、雨の日に取り上げる? 国際金融市場の功罪
恒常所得仮説と消費の平準化
現在のマクロ経済学モデルでは、予算的制約の中で効用(満足度)を最大化する家計(消費者)を考えます。家計は現在及び将来の所得水準を予測した上で、効用を最大化するように現在と将来の消費計画を立てます。すると一時的に所得が下がった時は借入によって消費を下支えしようとするはずです(これを「恒常所得仮説」と呼びます)。言い換えると、景気の悪い時には消費>所得、景気の良い時には消費<所得になります。このメカニズムを「消費の平準化」と言いますが、一国の経済でこれを達成するためには外国からの借入・貸付が必要です。つまり、国際金融市場が発達すればより多くの国が消費の平準化を達成できると考えられます。
国際金融統合は経済を不安定化させる?
ところが、先行研究で、こうした恒常所得仮説の予測に矛盾する消費の変動の推移に関するデータが示されました。さらに別の研究は、景気の良い時に借入(資金流入)が起こり、不況下で返済(資金流出)が生じているとも指摘しています。つまり国際金融市場は「晴れの日に傘を貸し、雨の日に取り上げる」ことで、経済を不安定化させているのではないかと疑われているわけです。
恒常所得仮説は本当に消費の平準化を意味する?
確かに恒常所得仮説は一時的な所得の増減に対して消費が平準化されることを予測しますが、もし所得の変動が恒久的なものであり、しかもそれが正の自己相関を持つとすると、恒常所得仮説はむしろ消費の変動が所得の変動を上回ると予測します。こうした所得のプロセスも考慮に入れて、実際の統計データを使って実証分析を行い、国際金融市場が消費の最適化・平準化に役立っていることが示されたのです。つまり、国際金融市場は「晴れの日に傘を貸し、雨の日に取り上げる」わけではなく、「雨の日に傘を差しだす」存在なのです。
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武蔵大学 国際教養学部 国際教養学科 経済経営学専攻 教授 鈴木 唯 先生
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