大腸菌のバリアを打ち破る! 抗菌薬が効かない病気を克服するには
薬剤耐性菌の脅威
抗菌薬が効かない「薬剤耐性菌」が増加しています。イギリスで行われた調査によると、薬剤耐性菌で亡くなる人は2014年には世界に70万人いましたが、2019年頃には140万人に増えました。このまま何も手を打たなければ、2050年には死者が1000万人になると予想されています。状況を少しでも改善するために、薬剤耐性菌の研究が進められています。
薬を近づけないバリアとは?
その一環で、大腸菌が薬剤耐性を持つまでのメカニズムが研究されています。メカニズムがわかれば、その仕組みを阻害するような薬を開発できるからです。新たに判明したメカニズムが、バイオフィルムの生成です。大腸菌が集まってバリアのような化合物を作り、それを周辺にまき散らすことで抗菌薬を近づけないようにしているのです。
バイオフィルムを作るときに必要な遺伝子などがわかれば、それを破壊することで薬剤耐性を打ち破れるはずです。実際に特定のたんぱく質の働きを阻害するとバイオフィルムができなくなり、抗菌薬が効きやすくなることがわかってきました。このたんぱく質はほかの病原性細菌の一部も持っており、働きを阻害する薬を作れば、大腸菌以外の薬剤耐性菌にも効く可能性があります。
バイオフィルムを作らせないために
大腸菌は、最初からバイオフィルムを作るたんぱく質を持っているわけではなく、特定の環境下でのみ、それを作り出しています。大腸菌の一つである尿路病原性大腸菌は、ぼうこうに入ったときにバイオフィルムを作ります。このとき大腸菌内の鉄が少なくなっていることがわかりました。ぼうこうの細胞と大腸菌が鉄を奪い合っているからです。鉄は生物にとって必須の元素なので、大腸菌もむやみに奪われたくはありません。鉄が少なくなる環境を察知した大腸菌は、身を守るためにバイオフィルムを作っていました。このように明らかになってきたメカニズムも考慮して、バイオフィルムを生成させないような薬を作ろうと研究が進められています。
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先生情報 / 大学情報
群馬大学 医学部 医学科 准教授 平川 秀忠 先生
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