思春期の心の動きは忙しい 自己肯定感を見つめる臨床心理学
自己肯定感は高ければいいのか
自分らしさを認めて自分を大切にする感情、すなわち「自己肯定感」が低くなると、自己嫌悪に陥って友人と対等に付き合えなくなったり、ネガティブな感情が生じたりします。しかし自己肯定感は、ただ高ければいいというわけでもありません。例えば、速水(2006)は著書『他人を見下す若者たち』の中で、本当は自分に自信がないのに、他人を見下すことで相対的に相手より優位に立とうとする「仮想的有能感」を提唱しました。自分の心を守るために生じる架空の自己肯定感もあるのです。臨床心理学では、対話や調査などを通じて自己肯定感などの心の動きを観察し、困りごとの解決や成長のための支援を行っていきます。
課外活動の何が自己肯定感に影響した?
クラス替えや進学、引っ越しといった環境の変化も自己肯定感に大きく影響することがあります。ある大学の新入生に対して、アルバイトやサークル活動などの課外活動が、自己肯定感とどう関連するかを調査した研究があります。その結果、課外活動の「量(時間)」の多さは自己肯定感の高さに影響していませんでした。量よりもむしろ、活動を通じてどういった体験をしたのかという「中身」が重要、という結果が出たのです。研究結果からは、特に学外の年長者とのコミュニケーションを継続的にとっている学生に自己肯定感が高い傾向が見られました。自分が大人として扱われる場所で上手にふるまえたという体験が自己肯定感に影響したと推察されます。
適切な自己肯定感を獲得するために
思春期は、感情が揺れ動きながら自分自身を形成していく時期であり、小さな失敗でも自己肯定感が急降下したり、ちょっとした成功体験で急上昇したりします。等身大の自分を受け入れること、失敗しても諦めてしまわずに「変えられるところ」を探すこと、解決方法が分からなければ周囲の大人に聞くことなど、少し勇気を出して自分でできる対策を試みることが、適切な自己肯定感の維持につながっていくのです。
※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。
※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。
先生情報 / 大学情報
常葉大学 教育学部 心理教育学科 教授 伊東 明子 先生
興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!
臨床心理学先生が目指すSDGs
先生への質問
- 先輩たちはどんな仕事に携わっているの?