伝説は真実か? 歴史をひも解く荘園研究
伝説の石
岡山県新見市には、古くから伝わる石があります。ある言い伝えによれば、愛した男性が命を落としたのを嘆き悲しんだ女性が、その場所で立ち尽くし、そのまま石になってしまったとされています。信じ難い話かもしれませんが、古文書の解読により、その出来事の一部は実際にあったことが判明しました。
古文書による解明
新見市はかつて、京都の東寺が支配する新見荘という荘園でした。そのため、岡山県から遠く離れた東寺には、今でも新見荘に関する多くの文献が残されています。その中には、室町時代に書かれた「たまかき書状」という手紙があります。ある時、新見荘を治めるために新しい代官が京都から派遣されてきましたが、農民から過剰な年貢を取り立てるなどの横暴なふるまいをしたため、耐えかねた現地の人に殺害されてしまいました。その代官に好意を寄せていたのが、身の回りの世話をしていた「たまかき」という女性です。たまかきは、代官の遺品の形見分けを求めて東寺に手紙を送りました。これがたまかき書状で、今も残る文献の一つなのです。つまり、現地で伝承される女性は、たまかきだと考えられます。石になったというのはさておき、室町時代から500年以上もの間、真実が人々の口から口へと語り継がれてきたのは驚くべき事実です。
荘園研究
今、私たちが住む大抵の場所は、中世には荘園か公領のいずれかでした。荘園であれば、荘園文書と呼ばれる管理のための書類が現在まで残っていることがあります。同時に、現地に祭りなどの風習が残る場合や、新見市の石のような言い伝えが残されている場合もあり、荘園文書と現地で得られた情報を照らし合わせることで、より詳細な歴史像を浮かび上がらせることができます。一方で、かつては荘園として栄えていた場所も、現在は過疎化や高齢化が進む地域が多く、口頭伝承や古い習慣などが途絶える懸念を抱えています。地域の歴史を具体化するには、これらの情報が失われる前に研究を進めることが望まれます。
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先生情報 / 大学情報
就実大学 人文科学部 総合歴史学科 教授 苅米 一志 先生
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日本中世史、宗教社会史先生が目指すSDGs
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