「大気球」による宇宙や地球観測を支える衛星通信技術

「大気球」による宇宙や地球観測を支える衛星通信技術

大気球で南極上空の大気の流れを調査

気候の予測や再現に活用される「気候モデル」は、地球の気候を物理法則に基づきコンピュータでシミュレーションするものです。この気候モデルを作るため、南極上空約20kmで「科学観測用大気球」を使い、大気の調査が行われています。また、オーストラリア上空約40kmまで大気球を上昇させた宇宙ガンマ線などの観測も行われています。
大気球による観測データは、地上780kmの低軌道を周回するイリジウム衛星を経由して地上へ送られます。イリジウム衛星は携帯電話やメールの送受信に使われる人工衛星で、南極上空の大気の観測データもメールで日本に届けられ、すぐに解析できます。グローバルな気球実験に重要な役割を果たす、衛星通信システムやデータ解析の研究が行われています。

イリジウム衛星測位で飛翔中の「もしも」に備える

大気球には飛翔中の位置を確認するためのGPS受信機が搭載されています。上空は気温が低く、磁気嵐による影響も受けやすいため、GPSの機器トラブルが生じる可能性もあります。そこで測位の予備系統として、イリジウム衛星との通信を利用したイリジウム衛星測位の利用が検討されています。
4機以上の人工衛星により、10m程度の誤差で位置を測定できるGPSに対し、衛星1機だけで行うイリジウム測位は数km以上の誤差が出てしまいます。そこでイリジウム衛星測位データの時間変化をもとに、誤差を小さくするデータ解析手法が提案されています。

データ解析や超小型センサの測定で気球実験に貢献

大気球からの通信のエラー率の調査も行われています。イリジウム衛星は現在66機が地球を周回していて、そのすべての軌道が南極・北極を通過します。その結果、極地には衛星がたくさん集まり電波の干渉が生じます。発生する通信エラー率が日本上空とは異なることが予想されるのです。
また携帯電話用の超小型センサを気球搭載用に使えるかも試験されており、搭載部品を軽量、低消費電力化し、より長期間の飛翔観測を目指しています。

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湘南工科大学 工学部 電気電子工学科 教授 加保 貴奈 先生

湘南工科大学 工学部 電気電子工学科 教授 加保 貴奈 先生

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無線通信工学、宇宙観測機器

先生が目指すSDGs

メッセージ

私は高校時代、宇宙の勉強をしたいと考えていましたが、その気持ちはまだ漠然としたものでした。そこで進学に際して、どの大学のどの学科が宇宙関係の学会で発表をたくさんしているのかを調べて、それをもとに進路を選びました。その選択方法は間違っていなかったと思います。あなたも、自分の興味がまだ漠然としか分からないなら、よかったら参考にしてください。私は分析などが好きですがそうではない人もいるように、人には持って生まれた好みがあると思います。ぜひ、ずっと続けられる自分の好きなことを見つけてください。

先生への質問

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湘南工科大学は「社会に貢献する技術者の育成」を大学のミッションに掲げる、1963年創立の工科系大学です。充実したICT環境と設備を備えた、湘南の自然豊かなキャンパスで、工科大学ならではの専門知識と実践的技術を身につけることができます。多くの授業でアクティブラーニングを取り入れており、学生が主体的に授業に参加し、実践を繰り返すことで理解を深めながら成長していく学修スタイルが特徴。また、少人数の担任制度や、きめ細かい就職支援などの各種制度により一人ひとりを手厚くサポートしています。