小説を読む カート・ヴォネガットとヒューマニズム
戦争体験から生まれた代表作
カート・ヴォネガットは現代アメリカのポストモダン文学を代表する作家です。ドイツ系アメリカ人のヴォネガットは、第二次世界大戦中はアメリカの兵士として従軍し、ドイツで捕虜になりました。彼はここで、連合軍がドイツに対して行った非人道的なドレスデン爆撃を経験します。自身のルーツがある敵国ドイツで、味方であるはずのアメリカを含む連合軍に空爆されるという理不尽な体験をもとに、彼は代表作の『スローターハウス5』を執筆しました。自身の悲惨な戦争体験をもとにしつつも、ヴォネガットは単なる悲劇にはせずに、ユーモラスな語り口やSF的な手法を取り入れながら人間に対する信頼や希望を描き出しました。
ヴォネガット作品にみるヒューマニズム
ヴォネガットの小説では戦争や行き過ぎたテクノロジーなど、社会的な問題が作品のモチーフとして登場します。彼の作品からは同時代社会への皮肉が読み取れますが、皮肉や不条理だけでは終わらせずにヒューマニズムを打ち出しているのが特徴です。ヴォネガットは理系のバックグラウンドを持ち、SF的な手法を取り入れながら作品を執筆するなど、文学史的に重要とされる巨匠たちの中でも一風変わった作家像を提示しています。さらにヴォネガットは、教養高く知的な批評家たちよりも先に若者たちに評価されて人気を博したポップカルチャー発の作家という点でも特異な存在でした。
文学から生きる力をもらう
文学研究の特徴的なことは、読む人によって読み方が全く変わってしまうところです。一つの作品に対して読む人の数だけ解釈が増えていきますし、その中からは作家自身が考えた以上のものが生まれたりもするのです。小説のより多くの読み方を提示することで、世界を広げていくのは文学研究の重要な役割です。読者自身も小説を通じていろいろなものの見方を手に入れることで、何か困難にぶつかった時に乗り越える力や豊かに生きるためのヒントを得られるでしょう。
※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。
※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。