在日コリアンを描いた小説がアメリカで大ヒットしたのはなぜ?
韓国出身作家の小説が大ヒット!
アメリカ文学の発展には、移民を描いた作品も大きな役割を果たしてきました。アメリカ以外の価値観や習慣を描いた物語が生まれ、文学がより豊かになっていったのです。21世紀においても新たな移民文学がアメリカ文学に影響を与えています。例えば2007年に出版されベストセラーとなった、韓国出身のミン・ジン・リーが書いた『パチンコ』という小説が挙げられます。在日コリアンの家族を4世代に渡って描いた大河ドラマのような作品です。
在日コリアンを描いた初の本格アメリカ文学
『パチンコ』は在日コリアンを描いた初の本格アメリカ小説としても高く評価されています。彼らが経験してきた貧困、職業差別、家族愛、忍耐力などがミン・ジン・リーの生き生きとした筆致で描かれているのです。この作品を通して在日コリアンの人々の歴史を知った読者も多くいたと思われます。またアメリカ文学の文脈において考えてみると、主人公の青年が在日コリアンとしてパチンコ店の一店員から経営者へと上り詰めるストーリーは「無一文から金持ちに(rags to riches)」というアメリカで愛されてきた立身出世の物語形式とも重なります。
新たな移民文学とアメリカンドリーム
『パチンコ』がアメリカで多くの読者を獲得したのは、アメリカ移民文学が描いてきた伝統的要素がいくつも含まれていたためとも考えられています。そのひとつがアメリカンドリームです。作品に登場する在日コリアンのカップルは日本での辛い生活から脱却しアメリカに渡ることを夢見ていますが「叶わない夢だろう」と薄々感じながら細々と英会話教室に通うのでした。ミン・ジン・リーはアメリカンドリームの儚さと残酷さをアメリカの外側から浮かび上がらせた作家ともいえるでしょう。これまでアメリカでは馴染みの薄かった在日コリアンの物語をアメリカ文学の伝統的要素と共に描いた『パチンコ』は現代を代表する新たなアメリカ移民文学として文学研究の場でも注目を集めています。
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上智大学 文学部 英文学科 准教授 下條 恵子 先生
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