人権が尊重される社会の実現をめざす観光
「世界観光倫理憲章」と「観光する権利」
「世界観光倫理憲章」とは、UNWTO(国連世界観光機関: 2024年に名称をUN Tourismに変更)が定め、加盟国によって承認された観光に関わる規範を示したものです。その第7条「観光をする権利」の第1項には、「直接的に、個人的に、地球の魅力を発見し、楽しむという側面は、全世界の住民に平等に開かれている権利である」、そして「この観光への参加に障害となるものは取り除かれるべき」と記されています。
「観光をする権利」とSOGI
観光への参加の阻害要因は様々ですが、ここではSOGI(性的指向性と性自認)に注目してみましょう。特定の性的指向性や性自認を持つ人々に対する偏見や差別によって、「観光をする権利」が妨げられることがあります。例えば、現在世界ではおよそ70カ国が同性成人同士の同意に基づく性行為を法律違反としています。同性愛者にとっては、そのような国はリスクが高すぎて旅行先とすることができません。また、同性愛者に対して敵意を持つような社会では、安心して旅行することは難しいでしょう。
SOGIの多様性を尊重する観光政策
このように同性愛など特定の性的指向性を持つ人に対して厳しい国がある一方で、SOGIの多様性を尊重し、LGBTQ+の旅行者を歓迎しようとする国もあります。例えばオーストラリアでは、年に1回開催されるシドニー・マルディグラというLGBTQ+コミュニティによるプライド・イベントをニューサウスウェールズ州とシドニー市が支援し、このイベントを目当てとするLGBTQ+の旅行者を誘致する政策をとっています。ここで大切なのは、SOGIに関わる差別や偏見をなくし、その多様性を承認するという意思が社会において共有され、法律で支えられていることです。LGBTQ+の旅行者の誘致については経済的利潤が強調されがちですが、「観光をする権利」が保障されるような社会的基盤を作ることで、人権が尊重される社会の実現に観光が貢献できるのではないでしょうか。
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