焦げを食べるとがんになる? 食事と健康の関係を分析してみた

食事調査の重要性
明治時代の日本海軍では、むくみや倦怠(けんたい)感を生じ、ひどいときは死に至る「脚気(かっけ)」という病気が深刻な問題になっていました。ある海軍医は「偏った食事に原因があるのでは」と考え、栄養バランスを考えて調理したカレーを提供したところ、脚気にかかる人が激減しました。これが現在の海軍カレーの原点であり、人々の食事内容や栄養状態を把握する重要性が伝わるエピソードです。
厚生労働省は国民の健康づくりに貢献しようと食事調査を毎年行っており、約5年ごとに「日本人の食事摂取基準」を公表しています。これを見れば、日本人が健康に過ごすために必要な栄養がわかります。
焦げを食べるとがんになる?
食事摂取基準を出すためには、人が何をどれくらい食べているのかといったデータが必要です。収集されたデータは食事摂取基準を定めるだけでなく、健康と食事の関係を探る「栄養疫学」の研究にも活用されています。
例えば、がんとアクリルアミドの関係を探る研究です。アクリルアミドは調理中にできる焦げに含まれており、発がん性があることがわかっていますが、食事に含まれる量で本当に人体に悪影響を及ぼすのかは不明です。そこで食事摂取量のデータをもとに、アクリルアミドの摂取量が多い人とそうでない人とで、どのくらいがんのリスクが異なるのかが分析されました。結果に大差がなかったことから、日常的な食事では発がんのリスクは低いと結論づけられました。
安心して食事をするために
加熱調理で発生するアクリルアミドは2000年頃に発見され、世界中で危険性が過度に受け止められていました。フライドポテトの調理中に有害物質ができる、コーヒーは豆を焦がして作るため体に悪い飲料だ、などの誤報が飛び交ったほどです。
栄養疫学の研究によって、何をどれくらい食べたら健康を損ねるのか、どれだけのリスクになるのかがわかれば対策ができます。栄養疫学は、食品に含まれる成分を過度に恐れず、安心して食事をするためにも重要な分野なのです。
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麻布大学生命・環境科学部 食品生命科学科 講師小手森 綾香 先生
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