電子の自動車が走る街をデザインして夢の物質を設計する

電子の自動車が走る街をデザインして夢の物質を設計する

物質は道路を電子の自動車が走る街

さまざまな物質は、電子の車がいろいろな状態で道路を走っている街に例えられます。立派な高速道路が整備された街では、立体交差のジャンクション(複数の高速道路が合流する地点)でお互いの車がぶつかることなく自由な方向に進めるので、A地点からB地点までの最短コースは地図上で簡単に見つけられます。シリコンのような半導体は、100万個ぐらいのジャンクションがある街を、たった1個の電子の車が縦横無尽に走っている状態です。ですから簡単に物質の機能をコントロールすることができます。

電子が膨大に集まると現れる「強相関電子系」

一方、狭い一般道路に多数の車が走っている街では、交差点で出会う車同士が衝突を避けるために、いずれかの車が無理やり曲がらざるを得ません。街中を走るすべての車同士が強く影響しあうので、目的地へは単なる地図上の最短コースではなく、ほかの車の動きも考慮した道のりを考えなければならないのです。例えば高い熱電変換性能を持つコバルト酸化物などのセラミックスでは、ぎゅうぎゅう詰めの電子の車がお互いに避けあい、止まりそうになりながらも一斉に動いている状態です。これを「強相関電子系」と言い、物質の中の電子はやがて自発的によけながら一方通行になる構造を自分でつくっていきます。

廃熱を高い効率で電気に変える物質もつくれる

車がひしめく街に電流を流したり、温度を下げたり、つまり環境をデザインすれば、電子は整然と行進したり、まるでフォークダンスのように動いたりします。うごめく電子の上に大きな熱を乗せて小さな抵抗力で運ぶことができれば、ゴミ焼却炉や排気ガスの廃棄熱エネルギーを効率よく電気エネルギーに変える物質がつくれます。いま世の中でムダに捨てられている熱の5%を電気に変えるだけでも、100万世帯ほどの家庭の電力消費量をまかなうことができるでしょう。電子の車の走りを制御するさまざまな街をデザインすることが、夢の物質実現につながるのです。

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名古屋大学 理学部 物理学科 教授 寺崎 一郎 先生

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物性物理学

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サイエンスの世界には、未知なるフロンティアがまだたくさんあります。「物性物理学」とは、その謎の地に分け入り、ワクワクする探検を楽しむゲームのようなものです。私たちがまだ知らないことを言わば手探りで見つけていく学問ですから、先人の確たる理論はありません。しかし最新の物理学を駆使し、未知の機能を持つ新物質の設計・合成を実現できる、非常にエキサイティングな世界です。「面白くて役に立つ、新しい物質の物理学」をめざして、知の最先端を学びませんか?

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