遺伝子組換えナスが数十万人の子どもたちの未来を救う?

ビタミンA欠乏症に苦しむ子どもたち
インドやバングラデシュ、パキスタンなどには、貧困によりビタミンAを含む食べ物を摂取することが困難な地域があり、数十万人の子どもたちがビタミンA欠乏症に苦しんでいるといわれています。乳幼児期に十分なビタミンAを取れないと、失明や、免疫機能の低下による命の危機が起こり得ます。その対策の一つとして、これらの地域でよく食べられている野菜を、ビタミンAを豊富に含むように変える研究が進められています。その候補に挙がった野菜がナスです。ニンジンやカボチャなどの緑黄色野菜には、体内でビタミンAとして働くβ-カロテンが多く含まれています。ナスにβ-カロテンが含まれるようにすれば、ビタミンA欠乏症を予防できる可能性があります。
β-カロテンたっぷりの遺伝子組換えナス
ナスの果実ではβ-カロテンがほとんど含まれていませんが、葉では作られています。その違いを探ると、β-カロテンのもととなる「フィトエン」を合成する酵素の遺伝子が、葉では働いているのに果実では働いていないことがわかりました。そこで遺伝子組換え技術により、フィトエン合成酵素が果実で働くようにした遺伝子をナスに導入しました。このとき組織培養技術によって、遺伝子が導入された細胞からナスの個体を再生させました。こうして、トマト果実と同程度のβ-カロテンを果実に含む遺伝子組換えナスを作ることができました。実用化に向けて、さらにβ-カロテンの量を増やせるように研究が進められています。
遺伝子組換え作物の可能性
除草剤抵抗性や害虫抵抗性など、生産者にメリットがある遺伝子組換え作物は世界中で栽培されています。一方、日本では観賞用の青いバラやコチョウランが商業栽培されています。遺伝子組換え作物の実用化には、環境に悪影響を与えないことや、食品としての安全性を確認する必要がありますが、将来は消費者にメリットがあるさまざまな遺伝子組換え作物が登場する可能性があります。
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龍谷大学農学部 農学科 教授三柴 啓一郎 先生
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