ヒト・生物の「スキル」を解明して環境に適したロボットを開発

ヒト・生物の「スキル」を解明して環境に適したロボットを開発

手紡ぎ作業の研究から

綿から直接糸を紡ぐ手紡ぎは熟練が必要な作業です。素人は糸の太さを見て調節しようとします。しかし、熟練者は目視しなくても糸を紡ぐことができます。視覚情報なしでどうやって紡いでいるのでしょうか。それを知るために、糸紡ぎ作業の研究が行われました。熟練者の作業を観察し、仮説を立て、実験と計算を繰り返した結果、手で糸の張力を検知して、それに応じて手の動きを調整していることがわかりました。この発見により、上手に糸紡ぎができるロボットが開発されました。従来の紡績機では紡ぐことができなかった素材から糸を作ることが可能となり、布地や糸のリサイクルに活用できる可能性も開かれました。

生物が持つ「スキル」を解明

人間をはじめとする生物の動作や作業スキルのしくみを解明して機械で実現する研究が、ロボット工学の一分野を形成しています。具体的な研究対象や方法は多岐にわたりますし、研究成果もさまざまな形で活用されています。体が不自由な人向けの、本のページめくり機はその一つです。従来のページめくり機は確実にページをめくることができていませんでした。しかし、人間はほぼ確実にめくることができます。この差を探るために、人間の指の動きを観察したところ、本を指で押さえてページの角からめくっていました。このことから計算を進めると、力学的に合理的であることがわかりました。この研究の成果を元に人の手と同じ原理のページめくり機が開発され、実用化されています。

素朴な疑問が環境に適応するロボットにつながる

こうした研究の出発点は素朴な疑問です。疑問から出発して、しくみを理解したり、仮説を検証したりします。例えば、猫の宙返りは、物理の教科書にも書いてあった従来の説では正しく説明できないことが明らかにされています。この結果はロボットの姿勢制御に応用されています。地球上で長い時間をかけて生物が獲得してきた機能やスキルの解明は、人にやさしく環境に適したロボットを開発するベースとして重要なのです。

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先生情報 / 大学情報

信州大学 繊維学部 機械・ロボット学科 教授 河村 隆 先生

信州大学 繊維学部 機械・ロボット学科 教授 河村 隆 先生

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知能機械学

先生が目指すSDGs

メッセージ

身近な自然現象や生物のふるまいに興味を持って、「どうやっているのだろう?」「どうなっているのだろう?」と思ったことはないですか。不思議に思ったらぜひ調べてみましょう。ただし、ネットの情報や一般に流布している説を少し疑ってみて、鵜のみにしないことが大切です。教科書でも正しくないこともあるのです。数学や物理は、現象を理解して表現するための基礎力になるのでしっかり学んでほしいです。成績を上げるためではなく、「わからない」ことが「わかる」ようになりたいという動機で勉強すると楽しめると思います。

先生への質問

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