新幹線のスピードアップのカギをにぎる、トンネル騒音対策
圧縮された空気が伝わって衝撃音が発生
日本が世界に誇る新幹線の特長は、安全性と信頼性、快適性です。そして、もうひとつが環境との調和であり、一番大きいものがトンネル騒音対策です。列車が高速でトンネルに入ると、空気鉄砲と同じ原理で列車の前の空気がぐっと圧縮され、音速に近い速度で空気がトンネル内を伝わります。そしてトンネル出口に到達すると、パルス(瞬間的な波動)状の圧力波が出口から周囲へ向けて放出され、「ボン」という低周波の衝撃音が発生するのです。
速度を10%上げると騒音は50%以上アップ
トンネル騒音が問題になったのは、1975年に山陽新幹線が全線開通したときで、ドカンという音に苦情が相次ぎました。当時の車両は0系と呼ばれ、最高速度はまだ220km/hでした。この衝撃音は鉄道関係者の間では「微気圧波」と呼ばれ、その強さはトンネルの長さにもよりますが、列車速度の3乗以上で比例して大きくなります。速度を10%上げると騒音は50%以上大きくなる計算です。そこで1988年、新幹線を新しい車両で、300km/hで走らせたいJRの意向を受けて、トンネル騒音対策が本格化したのです。
解決策はトンネル入口と列車の先頭形状
まず空力音響学によって、トンネル内の空気圧力の上がり方(勾配)が速いと音が大きくなることがわかりました。そして圧力勾配を下げるためには、トンネル入口での空気圧力の低減が重要であり、対策としてトンネル入口を手前に延長した筒状の構造物・緩衝工を設置し、また列車先頭の形状を工夫したのです。列車先頭は、カモノハシのくちばしのような独特な形状のロングノーズとなりました。運転席を含めた断面積を小さくして空気圧力を下げ、後は空気の流れを考慮しながら自由にデザインされています。
さらに最近の研究では、長さが20kmを超える長大トンネルでは、いくら高速で列車が進入しても、先へいくと空気の圧力勾配が下がるため、騒音問題が発生しないこともわかってきました。新幹線を取り巻く環境は日々変化しているのです。
参考資料
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先生情報 / 大学情報
九州大学 工学部 エネルギー科学科 教授 青木 俊之 先生
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