「国語学」は、言葉だけでなく、歴史や社会にも光を当てる学問!
昔は、母(ハハ)は、「パパ」だった!?
私たちが普段何気なく話している日本語は、長い年月をかけて少しずつ変化してきました。例えば、奈良時代以前、「ハ・ヒ・フ・へ・ホ」の発音は、唇の上下を付けて「パ・ピ・プ・ぺ・ポ」と発音していました。ですから「母(ハハ)」は「パパ」と発音されていたのです。それが平安時代には「ファ・フィ・フ・フェ・フォ」となり、「母」は「ファファ」になります。さらに江戸時代初期から中期にかけて「ハ・ヒ・フ・へ・ホ」へと急激に発音が転化し、「母」はようやく「ハハ」になりました。江戸時代の話し言葉は、現代とほとんど変わらないと言われています。
「ら抜き言葉」は本当に間違いなのか?
動詞の可能表現から「ら」を省いた、「見れる」「食べれる」などの、いわゆる「ら抜き言葉」は文法的に誤りとされています。しかし、「書くことができる」は「書かれる」と言わず、「書ける」が一般的です。この言い方は、すでに江戸時代に確立していました。同じ現象がほかの動詞に起こっていて、それが「ら抜き言葉」なのです。歴史的な経緯をたどると「ら抜き」は必然で、いずれは「見れる」「食べれる」も、誤りだとは言えなくなっていくでしょう。
歴史的な実績があり、多くの人が使うようになった言葉は、やがて社会に受け入れられていきます。ただし、明らかに間違った表現を野放しにすると、言葉本来の機能や文化としての洗練性が損なわれてしまうため、その点には注意が必要です。
言葉は「文化」である
言葉はコミュニケーションに欠かせない道具であるとともに、人々が伝承してきた社会共有の文化遺産です。言葉の成り立ちを探ることで、当時の歴史や人々の暮らしぶりが見えてきます。また最近の若者言葉や、「よろしかったでしょうか?」などの「アルバイト敬語」などから、現代社会の一端を垣間見ることもできます。文法的なアプローチだけではなく、言葉を通して歴史や風俗を探ることができるのも国語学の魅力なのです。
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先生情報 / 大学情報
京都女子大学 文学部 国文学科 教授 田上 稔 先生
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