美術の視点から宗教を考えてみよう アンコール遺跡群の研究
尊像の配置構成が手がかりに
カンボジアを中心とした地域では、9世紀から15世紀頃にかけてアンコール王朝が繁栄しました。世界遺産アンコール遺跡群には、代々の王が築いた寺院建築が多数遺(のこ)っています。それらの遺跡を観察すると、寺院の建造を命じた王が信仰した神々について知ることができます。12世紀後半から13世紀初めのジャヤヴァルマン7世統治期の寺院では、仏教やヒンドゥー教の神々の像(尊像)が複雑な構成で配置されました。寺院の中央には特に重要視された本尊がまつられ、周辺には本尊と関係の深い神や仏など、様々な尊像が置かれました。
観音菩薩に込められた意味
仏教美術は、当時の人々の考え方や信仰を考える手がかりになります。尊像の配置構成や建物などに刻まれた碑文から、どのような信仰をもって寺院をつくったのか、何を伝えたいのかなど、建造当時の考え方が見えてきます。ジャヤヴァルマン7世が建造を命じた「プレア・カン」という寺院では、本尊として観音菩薩(かんのんぼさつ)像が中央祠堂に安置されました。この寺院は、王が亡き父親を弔うためにつくったもので、その本尊に父親の姿を表したことが当時の資料からわかっています。アンコール王朝では、奉納者の身近な人物を尊像に表し、それを寺院にまつることも多かったようです。
彫刻や壁画に説かれる仏教の教え
アンコール王朝のもとで築かれた仏教寺院を訪れると、壁面や出入口を構成する部材に、釈迦の生涯を伝える「仏伝」をはじめとした仏教説話を表す浮彫がみられます。一方、現代カンボジアの仏教寺院においても、壁面や天井に様々な仏教説話が華やかな色彩を使って描かれ、仏教の教えを人々にわかりやすく伝えています。これら両時代の浮彫や壁画の間にみられる違いや共通点を明らかにすることも、今後の研究課題の1つとなっています。こうした課題に取り組むことによって、カンボジアの仏教文化史のさらなる理解につながるでしょう。
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先生情報 / 大学情報
立正大学 仏教学部 仏教学科 准教授 久保 真紀子 先生
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