予防には先手が大事! 脳機能の変化から認知症の兆しを見つける

予防には先手が大事! 脳機能の変化から認知症の兆しを見つける

認知症の前々段階で発見

社会の高齢化に伴い、認知症になる人は増加しています。認知症の多くは脳の神経細胞が失われてしまう「神経変性疾患」で、現段階では進行を遅らせる以外に治療の方法はありません。そのため、早期発見や予防が大切です。認知症の前段階である「軽度認知障害(MCI)」の時点で病気を見つけられれば予防的な介入が可能ですが、それでも3割から4割のケースはアルツハイマー病に進行してしまいます。そこで、さらにその前の「自覚症状がない(または軽いもの忘れの)段階」で、脳の機能的な変化を発見して発症を防ぐための研究が行われています。

脳の表面と内部から脳機能を測定

研究では、脳の機能を調べる方法としておもに脳波の測定と「経頭蓋磁気刺激(TMS)」という方法が用いられています。脳波測定は脳の電気活動を調べるものですが、脳の表面的な活動しかわかりません。それに対し、TMSではより内部にある「前脳基底部」という領域の活動がわかります。前脳基底部は、記憶や学習に関わりがあるアセチルコリンという神経伝達物質を分泌する神経細胞の塊です。
TMSで手の運動に相当する脳の領域に磁気刺激を与えると、約0.02〜0.03秒後に手の筋肉が収縮しますが、脳を磁気で刺激する直前に、腕のところの神経に電気刺激を与えておくと手の筋肉の収縮反応が小さくなります。この「反応の減少」には前脳基底部の制御が関係していることが知られていますが、認知症の人は、直前に電気刺激を与えても手の筋肉の反応は小さくなりません。これは前脳基底部の機能が弱まっているからだと考えられており、TMSで自覚症状のない認知症の微かな兆しを判断できないか、研究が進められています。

認知テストとの関連性を解析

脳波の測定やTMSは時間がかかることなどから、被験者の負担が少なからずあります。そのため、脳波やTMSのデータと課題による認知テストの結果との関連性を見いだして、将来的には認知テストだけで脳機能の変化を判断できるようにすることが目標とされています。

※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。

先生情報 / 大学情報

県立広島大学 保健福祉学部 保健福祉学科 作業療法学コース 准教授 田中 睦英 先生

県立広島大学 保健福祉学部 保健福祉学科 作業療法学コース 准教授 田中 睦英 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

認知神経科学、リハビリテーション科学

先生が目指すSDGs

メッセージ

一般的に、理学療法士は身体機能のリハビリテーション、作業療法士は日常生活や社会生活への適応のためのリハビリテーションを行う仕事だとされています。実際、解剖学や生理学が好き・興味がある人は理学療法士を選ぶことが多いのですが、私のように作業療法士に進むことも可能です。人の行動や機能についての知識をうまく活用すると作業療法ももっと楽しくなると思います。生理学や解剖学の観点から作業療法について勉強や研究をしてみたいと考えるなら、ぜひ一緒に新しい作業療法の形を作っていきましょう。

先生への質問

  • 先生の学問へのきっかけは?
  • 先輩たちはどんな仕事に携わっているの?

県立広島大学に関心を持ったあなたは

県立広島大学は、教育、研究、地域貢献、国際交流のいずれにおいても公立大学として一級の大学になっています。「主体的に考え、行動し、地域社会で活躍できる実践力のある人材の育成」を目標に、教養教育では、大学4年間の学士課程教育を通じて実施する「全学共通教育科目」を設定するとともに、専門教育においては、教養教育との連携を図りながら、「専門科目」を系統的に設定することにより、バランスのとれた教育内容を提供していきます。