美しい毛並みの裏にある、複雑な細胞のメカニズム
毛の向きは重要
動物や鳥のそろった毛並みは美しいものですが、毛の向きには、見た目だけでなく臓器や細胞が機能する上で重要な役割があります。例えば、内耳には、繊毛と呼ばれる小さな毛を有する「有毛細胞」がたくさんあり、その毛が同じ方向を向いているおかげで音を聞くことができます。また、気管にある「繊毛上皮細胞」は繊毛を特定の向きに動かすことで侵入してきたウイルスなどの異物を体外へ排出します。このような毛の向きはどうやって決められているのでしょうか。
毛の向きを決める巧妙な仕組み
毛の向きがそろうには、毛をつくる細胞が同じ方向を向く必要があります。モデル生物であるショウジョウバエの体表面には細かい毛が生えており、特定の方向を向いています。毛の向きが異常になる個体の解析から、細胞の向きを調節する分子群が同定されました。そのうち2つの膜タンパク質「Frizzled」と「Van Gogh」は、同じ細胞内では相対する細胞膜領域に非対称に位置し、細胞外の部分を介して隣接する細胞間でくっつきます。いわば、2つの磁石のN極とS極が結合するように、ある細胞のFrizzledが並ぶ側と隣の細胞のVan Gogh側がくっつくことで、隣接する細胞同士の向きがそろうわけです。しかしそれだけでは細胞の向きはそろっても、正しい方向にそろうとは限りません。さらなる研究で、細胞間接着分子である「カドヘリン」の一種が正しい方向に向かって発現の勾配をつくり、この情報に従い細胞集団の向きが決まるという説が提唱されています。
実験と理論の連携
この仮説は数理モデルを用いた解析においても裏付けられています。すなわち、実際の個体では、カドヘリン勾配にノイズがのっているわけですが、ノイズがあっても、先に述べた磁石の機構と合わさることで、細胞の向きが特定の方向にそろうことが示されています。
また磁石の機構とは全く別の、まるでくしで髪をとかすように毛の向きをそろえる機構も見つかっており、毛の向きをそろえる機構の多様性が広がりをみせています。
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