「距離と時間」をデジタル技術で克服! 人文学の新たな可能性
人文学とデジタル
歴史や美術、言語に文化、哲学や思想など、「人間による多様な営み」を対象とする学問の総称を人文学といいます。これは数ある学問分野の中でも歴史が古く、これまで多くの研究が行われ、史料や論文も膨大に蓄積されています。
こうした蓄積を活用するときに直面する大きな問題が、「距離と時間」です。史料は、別の場所に動かすことで壊れたり、時間とともに判読ができなくなったりする可能性もあります。しかし、デジタル技術が用いられるようになったことで、近年では史料を高解像度の写真データや3Dデータにすることが容易になりました。これにより史料の整理、閲覧といった作業が格段に効率化されました。
「顔」の比較研究
さらに、古文書などの史料に書かれた「崩し字」をAIによって瞬時に判読させることも可能になっています。また美術の研究では、作品に描かれた人物の顔の判別にもデジタル技術が用いられるようになりました。さまざまな絵巻物をデジタルデータ化して、そこから人間の顔のデータを集め、そこに書物や作者、年代といった情報をひも付ける研究も行われています。これによって、例えば「酒吞(しゅてん)童子」や「牛若丸」といった登場人物が、時代ごとに、あるいは作品や作者ごとにどのように描かれてきたのかを、より容易に比較研究することが可能になります。
21世紀の人文学
このように、人文学とデジタルを組み合わせて、研究の効率化や、新たな発見につなげる学問を「人文情報学」といいます。人文学と情報学は文系と理系、あるいは長い歴史をもつ分野と新しい分野といったように、「相反するもの」とされることもあります。しかし、2つをうまく融合させれば、互いの分野を高め合い、社会や文化をより豊かにさせる可能性があります。また、従来は研究者など限られた人しかアクセスできなかった人文学の成果に、誰もがアクセスできるようにすることも人文情報学に期待される役割です。21世紀というデジタル時代において、人文学研究は新しい局面を迎えているのです。
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