月面で暮らすための「ものづくり」を支える熱流体工学

月面で暮らすための「ものづくり」を支える熱流体工学

月の砂で家を建てる

2030年代、人類は本格的な月面探査に乗り出します。将来、多くの人が月で暮らすようになれば、地球から建材を運び続けるのではコストがかかりすぎます。そこで注目されているのが、月の砂をブロックなどの建材にして活用する方法です。月面の建物には、放射線や100℃以上の温度変化などに耐える性能が求められます。溶かさずに砂を焼き固めるだけでは性能が不十分なため、溶かして固める必要があります。ただしそれには膨大なエネルギーが必要で、それを省エネルギーで実現できるプロセスを設計する必要があり、そのためのシミュレーション技術の研究が進んでいます。

月特有の課題に挑む

月でのものづくりのためのシミュレーション技術には、地球環境を前提に作られてきた技術を刷新する必要があります。砂が溶けて再度固まるプロセスは「マルチフィジクス解析」と呼ばれる分野で研究が進んできていますが、月の重力は地球の6分の1しかないため、地球では重力の影響に隠れていた表面張力などの現象が顕著に現れます。また、溶けた月の砂の表面張力などの物性値データが整備されていないことも課題です。このことから、溶けた月の砂の物性値を国際宇宙ステーションに搭載された静電浮遊装置で測定する実験が計画されています。

新たなAI技術と熱流体工学の融合

月の砂の溶融凝固プロセスのような複雑な現象をシミュレーションするには、「どの方程式を計算すれば良いか」が分からないことがあります。また、実験データを得る機会も限られます。このような問題に対して、物理法則に基づいた新しいタイプの「物理ベースAI」が注目されています。従来のAIが大量の教師データを必要とするのに対して、この物理ベースAIは圧倒的に少ないデータから学習できます。また、「どの方程式を計算すれば良いか」を学習で知ることも出来るようになります。この技術は、熱流体工学以外にも幅広い分野に適用でき、未来社会の発展に寄与すると期待されています。

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先生情報 / 大学情報

東京都市大学 理工学部 機械システム工学科 教授 白鳥 英 先生

東京都市大学理工学部 機械システム工学科 教授白鳥 英 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

流体力学、熱力学、連続体力学

先生が目指すSDGs

メッセージ

変化の激しい時代、進路を選ぶのはとても難しいと思います。そんなときには、将来の仕事や生き方の選択肢をなるべく広げることが有効な作戦だと私は思います。今やっている勉強が大学で学ぶ学問とどうつながるのか、大学で学ぶことが社会でどう役立つのか、それを知ることは勉強のモチベーションになるはずです。まずは、いま世の中で注目されている色々な技術を見て、面白いと思えるものを見つけることがスタート地点だと思います。その色々な技術の一つとして、私が取り組んでいる研究に少しでも興味を持ってくれれば嬉しく思います。

先生への質問

  • 先輩たちはどんな仕事に携わっているの?

東京都市大学に関心を持ったあなたは

東京都市大学は2009年4月に武蔵工業大学からへ校名を変更。新たに文系2学部、理系2学部、文理複合系1学部を擁する総合大学として発足しました。前身の武蔵工業大学は80年の歴史を持ち多くの卒業生を輩出、日本の産業発展に貢献して来ました。97年には文系・理系複合の環境情報学部、09年には文系の都市生活学部と人間科学部を設立し、工学部から分かれた知識工学部を加えて学問の分野が大きく広がっています。80年の歴史を携え、キラリと光る特徴をもち存在感のある大学を目指す東京都市大学は、常に進化を続けています。