植物の免疫と病原菌の仁義なき戦い

病原菌と無害な細菌はどこが違う?
自然界にはさまざまな微生物がいますが、その多くは害のない微生物です。しかし、一部のカビや細菌などは植物に感染して病気を起こしてしまいます。農作物のうち3分の1ほどが、病気によって食用とならなくなっているといわれており、食糧問題を考えるうえでも病気を防ぐことは大きな課題です。病原菌と無害な細菌との違いの一つは、植物の免疫をくぐり抜ける機能を持っているかどうかです。では、植物の免疫とはどのような仕組みで、病原菌はどのようにして、その仕組みをくぐり抜けているのでしょうか。
植物が微生物の侵入を阻む仕組みとは?
植物は微生物の存在を感知すると免疫応答を起こし、対抗する物質を作って微生物の侵入を防ぎます。動物の場合、抗体という、ある微生物にだけ鍵と鍵穴の関係のように反応する特別な構造を、さまざまに持っています。しかし、植物の場合はそうなっておらず、例えば多くの細菌が持つべん毛の一部といった、特定の微生物に共通する分子に反応して免疫応答が起きるようになっています。このような免疫システムを「自然免疫」といい、植物細胞の場合、細菌やカビなどの分子を認識することができる受容体候補の種類は約1,000に及ぶことがわかっています。しかし、病原菌は植物の細胞の中に注射器のようなものを差し込んで、タンパク質を注入し、自然免疫をかいくぐってしまうのです。つまり、植物をコントロールして自分に都合のよい環境を作ってしまう細菌が病原菌というわけです。
植物の免疫の仕組みを可視化する
植物の免疫と病原菌が繰り広げている攻防戦を調べるためには、見えないものを見えるようにする必要があります。遺伝子を操作して、免疫が活性化している細胞だけ光らせるのも一つの方法です。普通の細菌がいるときは光っている植物も、病原菌を感染させると病原菌のいるところだけ光らなくなります。植物の免疫と病原菌の仁義なき戦いの仕組みは、こうして可視化することで少しずつわかってきたのです。
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龍谷大学農学部 植物生命科学科 教授別役 重之 先生
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