期待が裏切られたときにも訴訟は可能? 期待権と損害賠償
医療行為と期待権
期待権という、期待そのものを保護する権利があります。例えば死期が近い末期がんの患者が医療過誤により亡くなってしまった場合、医師の過失がなくとも末期がんで亡くなってしまう可能性が高いことから医師の過失と患者の死亡との因果関係が認められません。そのような場合であってもずさんな医療行為を行った医師に対して、遺族は適切な医療行為を行ってもらえる期待が裏切られたという「期待権侵害」、機会を失ったことなどを理由に損害賠償を請求できる可能性があります。
期待権の判断基準
ただし、期待が裏切られたからといってすべての場合に期待権侵害を認めてしまうわけにはいきません。そこで、加害者の行為の「態様」と侵害される利益の重要性との相関関係を判断基準として考えます。もちろん、生命身体に対する期待の重要性は、最上位にあるといえるでしょう。しかし、次の場合はどうでしょうか。例えば、アイドルのオーディションに行く途中で交通事故にあったとします。事故のせいでオーディションに行けなかった、というのは生命を失うことに比べれば侵害された利益の重要性は低くなります。オーディション結果は不確かで、仮に受かったとしても大金を稼げたかどうかわかりません。
しかし事故の加害者が意図的に「被害者を貶めよう」と考えていた場合、行為態様の悪性は高くなります。すると利益としての重要性は低いけれど態様の悪性が高いと判断され、期待権侵害が認められる可能性がでてきます。
損害賠償額はどう決める?
期待権侵害が認められた場合、最終的には損害賠償額が決定されることになります。しかし法律には賠償金額の算定方法が具体的に書かれていないため、金銭評価をするのが難しい問題となります。人が死亡したことを根拠に損害賠償を算定する場合に、基準となるのは年齢と収入です。しかし、期待を金銭的に算定することは難しいため、加害者の行為態様の悪性や、適切に治療が行われていれば生存していた蓋然性などさまざまな要素が考慮され慰謝料という形で金銭評価されます。
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大東文化大学 法学部 法律学科 教授 松原 孝明 先生
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