体内の分泌速度と同じスピードで薬剤を注入する技術

体内の分泌速度と同じスピードで薬剤を注入する技術

微細でしなやかな動力を得るのに最適な人工筋肉

現在の人工筋肉は、腸の蠕動(ぜんどう)運動のように全体のうちの一部がしなやかに移動することで動きます。このような動きを可能にしたのは、2000年にノーベル化学賞を受賞した白川英樹氏が発見した、厚さが40ミクロンの導電性高分子です。発見当初は電気が流れるプラスチックとして注目されましたが、その後、電気化学的な刺激で体積が変化するという特性が、人工筋肉に生かされたのです。
このしなやか、かつ微細に動くという人工筋肉の特性を生かした動力を、何かを回転させることで動力を得る通常のアクチュエータに対して、ソフトアクチュエータと呼びます。
人工筋肉はさまざまな応用が可能です。素材そのものが小さく動力と一体化しているため、医療で使用されるカテーテルの動く先端部分に利用できます。そのなめらかな動きは、デジタルカメラのオートフォーカスにも応用できます。また、少し触れただけで電気が流れるのでセンサーとしての利用もできます。なかでもソフトアクチュエータは、細かな動きが可能な動力源として注目されています。このアクチュエータを使ったマイクロポンプは、1分当たり10マイクロリットルのわずかな量の液体を送り出すことができます。例えば、医療現場でインシュリン注入に利用すれば、体内の分泌速度とほとんど同じなので、患者に負担を与えることなく薬剤の注入が可能になります。

課題は制御技術。従来の技術は役に立たない

課題の一つは、人工筋肉の微細な動きをいかに制御するかです。これまでの一般的な制御技術は使えません。そこで、開発研究者は新しい制御手法を構築しています。この動力は、動作時に外からなんらかの力が加わり動きが阻害されると、自分自身が変形することで運動を吸収できます。これは装置の破壊を防ぎ、安全性にも優れています。また、省エネルギーなので小型で効率のいい装置を開発することもできます。人工筋肉の今後の発展に期待したいものです。

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九州工業大学 情報工学部 知的システム工学科 教授 渕脇 正樹 先生

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先生が目指すSDGs

メッセージ

私がふだん学生に言っていることは、何でも一生懸命にやりなさいということです。一生懸命やれば、そこから何かが見えてきます。もしかしたら今あなたは、物理や数学は何のために勉強するのだろうと疑問に思っているかもしれません。しかし、大学に行ってロボットの研究をしてみると、物理や数学がいかに大切かが分かってきます。私も学生時代は、まじめな学生ではありませんでしたが、研究をやり始めてそのことに気づきました。何事にも一生懸命に取り組んでください。

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「情報工学」は、高度情報化社会の進展の中で、ますます必須知識・技術となっています。
九州工業大学情報工学部は1986年に創設された日本初、現在も国立大学で唯一の情報工学部です。知能情報工学科、情報・通信工学科、知的システム工学科、物理情報工学科、生命化学情報工学科の5学科があり、それぞれの分野において、高度な専門技術を身につけた人材を養成します。これまでに1万人を超える情報通信技術者を生みだし、様々な分野で日本の情報通信革命を支えています。