映画はなぜ動いて見えるのか
俳優がスクリーン上にいるわけではない
普段、何気なく見ている映画やテレビ。何の疑いもなく、私たちの目には動いているように見えます。といっても、実際にスクリーンやブラウン管のなかで物が動いているわけではありません。光の明るさが変わっているだけです。物理的には同じスクリーンや画面なのに、当てられる光が変化することで、動く映像として知覚されるのです。
こうした現象を「運動錯視」といい、これまでも同じ事例がたくさん報告されています。例えば、グラデーションがあると、暗い部分から明るい部分の方へと動いているように見えるので、運動錯視を応用して動くポスターや標識を作ることも可能です。
メリットばかりではありません。それによって見えなくなってしまうものもあります。人間には動いているものに、より注意が向く性質があるため、同じ画面の中でも、静止している部分は動いている部分に比べて見落とされることが多いのです。
錯視を利用した娯楽文化
実はこの15年ほど、雨後の筍のごとく次々と新しい錯視が発見されています。パソコンの普及などにより、多くの人が簡単に画像を作成できるようになったからです。ところで、錯視がなぜ起こるのでしょうか。
もともと、目で見る像は2次元。それを3次元として知覚しているのです。本当は、2次元から3次元への変換は何通りもあります。しかし、目から入ってきた像を、いちいち何通りも想定して3次元に変換していたら、きりがありません。そこで、人間は少しズルをして、簡単なルールを使って3次元の像を決めつけているのです。日常生活で大きな間違いを犯すことはなくても、必ずしも正解というわけではありません。だから錯視が起こるのです。
映画が大衆の娯楽として定着したように、物理的には存在しないものを錯視として、人間が共有することは大きな可能性を秘めています。
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千葉大学 文学部 行動科学科 教授 一川 誠 先生
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