AIが個人の尊重を脅かす!?
AIは人間より「正しい」?
憲法13条に「国民は個人として尊重される」とあります。近代社会は、自分で考えて行動し、その結果に責任を持つ自律した個人から成り立つ社会です。自律した人間同士だからこそ、お互いを尊重し合えます。しかし、AI(人工知能)の普及がこのような社会のあり方を大きく揺さぶるかもしれません。
AIは膨大なデータを解析し、統計的に最適解を抽出します。ただ、AIがどのようにデータを学習し、なぜこの推論を導き出したのか、人間にはわからないことがあります。AIが人間の知能を超えているとするならば、AIがすべて「正しい」ことになり、人間の判断能力の価値は失墜します。「自律的判断能力がある者同士がお互いを尊重し合う」という、個人からなる社会に大きな疑問が投げかけられることになります。
AIに行動が読まれる
また、人間が自律的な判断をするといっても、今まで得た情報や意見、経験を基に考えています。それに対してAIは考え方のパターンを読むので、あなたがこの情報を見たらこう判断する、と予測できます。インターネット上の広告の多くも、あなたのブラウザ上での行動を分析して表示されているのです。
そうした操作された情報に囲まれると、自律的に意思決定したつもりでも、実はAIに左右されているといった事態が起きます。「個人の尊重」や「自律した個人」という人間像にAIは大きな挑戦状を突きつけているのです。
社会全体が豊かになるために
さらに、AIにより人のスコア化やレベル分けがなされるかもしれません。すると、基になるデータや社会の偏見が拡大して反映される危険性もあります。それを当然に「正しい」ものとして人間の判断に代替させてしまえば、社会は根本的に違ったものになってしまいます。
これらのことから、AIの研究開発や使用のためのガイドラインを作り、それを社会や研究者が共有して最適な方法を見出さなければなりません。人間の尊厳や個人の尊重を守りながらAIが発展し、社会全体が豊かになっていくことが求められます。
参考資料
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先生情報 / 大学情報
東京大学 法学部 教授 宍戸 常寿 先生
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