進歩するRNA研究
翻訳が遺伝情報RNAを消去する
分子生物学で最も重要な原理は「セントラルドグマ」です。DNAの遺伝情報がRNAを介して、タンパク質の合成を指令する、という遺伝情報の流れを表す原理です。
生物の授業で習うと思いますが、DNAは遺伝形質を記録した遺伝子として、自己複製により同じDNAを作ります。また、DNAの遺伝情報を読み取って、核の中でmRNAが作られます。これを「転写」と言います。mRNAは遺伝情報を運ぶ大切な役割を担っています。mRNAは細胞質へと出て行き、リボソームがmRNAの情報のもとにアミノ酸を結合してタンパク質を作ります。このプロセスが「翻訳」です。
翻訳が終わってタンパク質ができてしまえば元の情報(mRNA)は不要になります。2003年に、翻訳の終結がmRNAの分解を引き起こすことが発見され、2007年にその分子機構(mRNA分解開始の分子機構)が解明されました。翻訳が終わるということがmRNA分解の引き金となっていたのです。
意外と少ない遺伝子の数・意外と多いRNA
2003年にはヒトゲノムが解読されるという画期的なできごとがあり、遺伝子の研究は大きく進歩しました。このときヒトの遺伝子の数は、約2万2千と推定されました。
当初予想されていた数よりも少ないものでした。ハエとあまり差がありません。ヒトはハエよりも複雑な構造をしているはずなのに意外です。では、両者の違いはどこに起因するのでしょうか? それはRNAです。ヒトゲノムの解析から、ヒトにはタンパク質に翻訳されない「ノンコーディングRNA」が多数存在することが明らかになったのです。これら膨大な数のRNAが何をしているのかは不明な点が多いのですが、翻訳やmRNA分解、転写にはたらき、遺伝子発現のより高度な調節を可能にすることで、ヒトのような生物の複雑さ、人間らしさを支えていると考えられるようになってきています。2006年にはRNAに関する研究でノーベル賞受賞者が2組も出ました。今、RNA研究が注目を集めています。
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先生情報 / 大学情報
名古屋市立大学 薬学部 教授 星野 真一 先生
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